65歳からは「年金500万円」、現役時代は「年収2,000万円」。誰もが羨む収入、高笑いの余生のはずが…“70代・元国会議員”が老後破産したワケ【FPの解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

すでに廃止になっていますが国会議員、地方議員には議員年金と呼ばれるものがあり、通常の公的年金よりも潤沢な年金を受給することができました。しかし、そんな恵まれた環境下にあっても、老後破産に陥ってしまうこともあって……。本記事では、永田正さん(仮名)の事例とともに、富裕層の意外な老後破産の原因について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

元国会議員、恵まれた「議員年金」を受け取るも…

永田正さん(仮名/78歳)は元国会議員です。40代のころに会社員を辞めて家業の会社を継ぎ、その後の経営は両親と妻に任せて地方議員からキャリアを積み、国会議員へ。10年以上ものあいだ務めました。

そして、60代で落選したことをきっかけに国会議員から引退したあとは地元の議員のサポートを行いながら老後の生活を送っていました。

永田さんは、いわゆる議員年金(国会議員互助年金)を受給することができ、自身の公的年金と年間で約500万円にもなる公的年金を受け取っていました。議員年金は財源の3分の2が税金から賄われており、公的年金制度の見直しに伴い、国会議員互助年金は2006年に廃止されました。ただし、それ以前に10年以上加入していて受給権を満たしていた人には減額はされるものの支給はされています。

現役時代の年収は最終的には約2,000万円ほど。資産も1億円近く保有していました。

「余生は楽勝です」と当時の永田さんは高笑いしていたといいます。

しかし、そんな永田さんからは想像し難いものですが、老後破産と呼ばれるような状態に陥ってしまうことに……。

妻任せだった会社経営

永田さんが引退したころには妻の春江さん(仮名/60代)に会社の経営を任せており、議員活動で忙しく、引退後も現役の議員のサポートのため会社経営にはほとんど関わってきませんでした。

そして、そのことがついに70代になって問題となってきました。

春江さんの会社は衣料品や化粧品の販売からスタートし、高度経済成長期に建設した不動産賃貸、飲食、ホテル事業、さまざまな事業を手がけていました。そして、春江さんが社長就任時にはエステサロンも新たに始めてきたのでしたが、その経営は決して順調なものではありませんでした。

衣料品、化粧品の売上はもう20年も前から低迷を続け、不動産もテナントは半分も入っていない状況。駅前の飲食店とホテルは比較的好調だったものの、コロナ禍で年間の売上高はそれまでの3分の1にまで落ち込み、もともと年間数百万円程度の利益しかなかった事業は年間6,000万円もの赤字に転落してしまい、2年間で事実上1億円以上の債務超過の状態に陥ってしまったのでした。

加えて、そのタイミングで発覚したさらなる問題が、会社の社会保険料の未納です。ホテル、飲食店で数多くのパート、アルバイトを抱えていた春江さんの会社でしたが、厚生年金、健康保険を適用すべきアルバイトやパートに対し「社員以外は不要」と考え、社会保険に加入しないまま長年過ごしてきたのです。

社会保険を適用していなかったパート、アルバイトの社会保険料を遡って2年分支払うことになり、総額で4,500万円の支払いが必要となってしまったのです。

コロナ禍による経営不振に加え、社会保険料の未納分の支払いにより、もう存続は不可能に。倒産は余儀なくなりました。

そして、会社の借入金はすべて妻が連帯保証人となっていたため、代わって永田さんの個人資産から補填することにしたのでした。

配偶者を役員にするケースは多いが…

議員年金という恵まれた年金を受け取り、大きな資産を保有しながらもこのような状況になってしまった原因は、議員活動の忙しさから、会社の経営状態を見ようとせず、妻に任せきりにしてしまったことにあります。

永田さんのケースの場合、直接的にはコロナ禍が大きなきっかけとなりました。しかし、それ以前に事業の見直しを行ったり、今後収益を得られる見込みがない事業は整理したり、まして社会保険の適用など法令への適用状況は元国会議員という立場を考えればもっとしっかりチェックすべきだったことでしょう。

社会保険料・税金の「滞納」で倒産する企業は急増

事業を営んでいる以上利益を得て、会社のお金を残して、コロナ禍のようなピンチに強い体質を作っていれば個人資産を犠牲にしなければならないほどの事態は免れることはできたかもしれません。

実際、株式会社帝国データバンクの『全国企業倒産集計2023年11月報 別紙号外リポート』によると、昨年(2023年)には、社会保険料や税金の滞納で倒産する企業が急増し、過去最多となっています。コロナ禍の納付猶予の期限切れ後に破綻が相次いだようです。春江さんの場合は社会保険の適用に関して正しい知識を持ち合わせていなかったことが原因ですが、つまり、苦境の条件は当然ながらほかの企業も同じだったのです。

会社の規模が大きくなると得られる利益も大きくなる反面、掛かる固定費も大きくなります。そのため、コロナ禍のように売上が大きく減少してしまうような場合には短期間で一気にマイナスへ転じてしまう場合もあるのです。

そうした事態に陥らないためには、定期的に業績をチェックし、数字を見ながら素早く的確な判断をすることが重要です。

自分での管理が難しいのであれば、できる人に早々に譲渡したり、経営権を与えて自分は第一線を退くことで自社株をお金に換えることもできたことでしょう。

まだ会社に値段がつく状態で売却すれば金融資産を倍増させ、さらに運用しながら取り崩すことができれば、議員年金にさらに数百万円上乗せし、周りが羨むような豊かな老後の生活を送ることができたでしょう。売却したお金を元手に好きな仕事を始め、好きなことをして余生を送ることもできたはずです。

年金をたくさん受け取れても…

今回は元国会議員で高笑いの余生から転落してしまった永田さんの事例を紹介しました。

令和元年に発表された、老後2,000万円問題の発端となった『金融審議会市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理』によりますと、高齢夫婦の公的年金の平均的な受給額は月額で約21万円となっています。

それに対し、議員年金は保険料が年間約126万円と高額なものの、10年以上在籍した場合には年間で400万円以上、加えて自身が受け取れる公的年金も受給できます。

地方議員、国会議員ともに、経営者が議員になることは多く、恵まれた議員年金を受け取っていてもそのほかの要因により(今回であれば事業の失敗)、破産に陥ってしまう可能性もあります。家計においても収入と支出の管理は重要ですが、事業主にとっては動く金額も大きくなるためさらに重要なことです。

小川 洋平

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