ウエストランド河本、酒に酔ってタクシー運転手とトラブル…もし会社員だったら「断酒」を命じてもいい?

ウエストランドの河本さん(YouTubeより)

お笑いコンビで、2022年のM-1グランプリ王者となった「ウエストランド」の河本太さんが4月20日夜、酒に酔ってタクシー運転手とトラブルになったと「週刊文春」が報じました。

同誌の取材に対して、所属事務所タイタンの太田光代社長は「彼は酒が弱いのであんなことになってしまった」「本人はもう酒は飲まないと反省しています」とコメントしています。

また、報道によると、太田社長は、河本さんの「断酒」をサポートすると発言しているとのことです。

芸能人に限らず、一般の社会でも酒に酔ってトラブルを起こす人はいます。もし会社員がこうした飲酒トラブルを起こした場合、会社は社員に「断酒」など私生活に及ぶ指示をすることは可能なのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。

●断酒を命じることはできるのか?

——会社側が飲酒トラブルを起こした社員に対し、懲戒処分をすることは可能なのでしょうか

従業員が飲酒による影響で問題行動を起こした場合、それが勤務中であれば当然、懲戒処分の対象となります。ろれつが回らない状態で接客したり、工場内での製造ラインで作業したり、自動車の運転をしたなどであれば、もはや論外のレベルです。

——では断酒を命じても問題はないのでしょうか

勤務時間が終了したあとは、従業員とはいえども、会社の就業規則や、その他の社内ルールに拘束はされません。そのため、断酒を命じることは認められないと考えます。

飲酒を含めて社会的に許容される限りで趣味趣向に費やすのは自由です。特にアルコール摂取自体は、我が国においては合法であり、外国と比較すれば、寛容に扱われたり、いわゆる「飲みニケーション」などと称されたりするように、ごく一部の方は先陣を切って飲み会を主催することもあります。

しかし、その飲酒の結果、それが翌日の業務に支障がでるようであれば、やはり懲戒の対象となりうるでしょう。

ただし、厳密には、飲酒行為自体が懲戒の対象となる、ということではなく、飲酒の影響により適正に業務に従事できない精神状態・身体状態で就業していること自体が懲戒の対象となる、という意味です。

会社から従業員に対して、仕事を終えてからの「飲み」はほどほどにしておけよ、などという助言はできるでしょうが、「断酒しろ」と命令をする権限はないでしょう。

その延長線上の問題ではありますが、従業員に対して、断酒や禁酒を命じたり、断酒会や自助グループなどへの参加を強制することもできないでしょう。

もちろん、従業員自体が心底から自己の問題飲酒行為を矯正したいという思いをもって、会社の指示や介入を受け入れるならば、それは問題ありません。従業員が望んでいることを会社がむしろ手助けしてあげているだけですから。それを超えて、さらに薬物療法の段階となると、これはもう、その従業員の意思に任せるべきであると思われます。

我が国でもすでに承認されている抗酒剤、飲酒欲求軽減薬や飲酒量低減薬がいくつかあるようですが、いずれも副作用があるようですから、それについて自覚したうえで服用するかどうかは個人の判断になるでしょう。

【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html

© 弁護士ドットコム株式会社