「こんな気持ちになったのは初めて」決勝弾アシストの荒木遼太郎がカタール戦で味わった重圧。右サイドにも難なく適応「スムーズにできた」【U-23アジア杯】

パリ五輪のアジア最終予選を兼ねるU-23アジアカップの準々決勝で、日本は開催国のカタールと対戦した。

開始2分にMF山田楓喜(東京V)が先制点を挙げたが、24分に追いつかれる。前半の終了間際には、FW細谷真大(柏)への危険なプレーで相手GKが一発レッド。日本が数的優位となる。

後半開始早々に勝ち越され、その後は守りを固める相手を崩せずにいた。それでも67分にMF山本理仁(シント=トロインデン)の右CKからDF木村誠二(鳥栖)が同点ゴールを奪ったが、以降もカタールの守備網に手を焼く。

アウェーの環境で重苦しい雰囲気が漂うなか、大岩剛監督が攻撃の切り札に指名したのが、MF荒木遼太郎(FC東京)だった。

「狭いエリアでのボールスキルやイマジネーション、シュートも期待していますし、セットプレーも含めてですけど、そこは期待していました」(大岩監督)

後半アディショナルタイムは9分の表示。指揮官、羽田憲司コーチ、浜野征哉GKコーチが議論した末に荒木が呼ばれると、90+6分にピッチへ送り込まれた。

与えられたポジションは右サイドハーフ。FC東京や前所属の鹿島でも、トップ下やインサイドハーフを主戦場としており、慣れ親しんだポジションでの起用ではなかった。大岩ジャパンでも、2年前のドバイカップでは左サイドハーフでプレーしたが、今年3月の活動では試されていない。

ぶっつけ本番のスクランブル起用だったが、荒木にはイメージがあった。

「練習でもしていないですし、試合に出る前に言われたんです。ただ、あそこまで押し込んでいる状況であれば、ポジションは関係ないと思ったのでスムーズにできた」

普通のサイドハーフとはやや役割を変え、右SBの関根大輝(柏)を押し出すような可変システムでインサイドにポジションを取る。もちろん相手がひとり少ない状況だからこそ成り立ったのかもしれないが、類まれなサッカーセンスと適応能力があるからこその芸当。あとはプレーしながらアジャストさせた。

最初は良いタイミングでボールを引き出せなかったが、延長前半以降は流動的なポジショニングで右サイドから内側に入ってチャンスに関与。カタールが守備に比重を置いたため、スペースはほとんどなかったが、狭いエリアでパスを受けて変化をつけていく。

そして、この試合で最大の見せ場が訪れる。2-2で迎えた101分だ。

右サイドでリスタートすると、MF藤田譲瑠チマ(シント=トロインデン)から鋭い縦パスが送られる。ボールを受けた荒木はワンタッチで前を向き、FW細谷真大(柏)に鮮やかなスルーパスを通す。時間もスペースも限られたなかで相手の動きを無力化し、エースの決勝弾を見事にお膳立てした。

【動画】荒木の絶妙スルーパスから生まれた細谷の決勝弾
「チマたちが何本か縦パスとかを入れてくれていたので、自分がピッチに立ってからも何本か来ると思っていた。ワンチャンスをモノにできるかどうかで、このゲームが変わると思っていたので、狙い通りでした」(荒木)

【PHOTO】U-23日本代表のカタール戦出場17選手&監督の採点・寸評。決勝ゴールのエース、同点弾のCBを最高評価

終了間際にはFW内野航太郎(筑波大)にもゴールが生まれ、4-2で勝利を収めた日本。そのなかで、決定的な仕事を果たし、見事にゲームチェンジャーの役割を遂行した荒木。しかし、このカタール戦では、今まで味わったことのない重圧を感じていたという。

「歴代の先輩たちが何十年と出場を続けて、オリンピックに出ている。その重圧はあったし、それで得点も入らないというので、より感じることが大きかった」

どちらかと言えば、常に冷静で場に左右されるタイプではない。しかし、負けたら敗退の準々決勝は、今までとは違った。2018年にU-17ワールドカップの出場を目ざして、U-16アジア選手権(現・U-17アジアカップ)を戦った経験はあるが、それとは別物だった。

「こんな気持ちになったのは初めて」

今大会に入ってから、日の丸を背負う重みや責任を、これまで以上に強く感じるようになっていた。韓国とのグループステージ最終戦で、MF川﨑颯太(京都)が悪質なタックルを受けた際には、「舐められると思った」という想いで、真っ先に駆け寄って珍しく感情を露に。試合前日のトレーニングでパリ五輪への想いを尋ねられると、「自分の感情もそうですけど、出場は日本の使命」と言い切った。

迎えた今回のカタール戦。ある意味、極限状態にあったが、重圧を跳ね除けて結果に結びつけた。

普段はメディアの前で口数が多い方ではなく、代表への想いを語ることも少ない。しかし、心のうちに秘めている覚悟は本物だ。

「韓国戦で負けた後の勝利なので、本当に意味がある」としつつ、「ひとつ山を超えたなと思うけど、まだみんなも気を緩めていない」と語気を強めた背番号13。パリ五輪出場まで、あと1勝。先輩たちが繋いできた伝統と誇りを絶やすわけにはいかない。準決勝も日本のために闘い続ける。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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