沖縄、金沢、広島…魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成。新展開に専門家も目を見張る「民間活力導入」とは?

近年日本でも魅力的なスタジアム・アリーナが続々完成している。では、なぜ「ハコモノ」と揶揄された旧来のスポーツ施設とは異なる特徴を持つスタジアム・アリーナが次々と生まれるようになったのだろう? スタジアム・アリーナの専門家であり、自らも「Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島」の建築を手がけたことでも知られる上林功氏は、キーワードは「社会価値の共創」だと話す。

(文=上林功、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)

スタジアムで進む共創の仕組み。キーワードは「社会価値の共創」

2024年に入り、続々と新しいスタジアムが完成しています。2月に完成した「金沢ゴーゴーカレースタジアム」や「エディオンピースウィング広島」、10月に完成予定の「ピーススタジアム長崎」などワクワクするようなスタジアムが目白押しになっています。

これらの新スタジアムは2016年にスポーツ庁が公表した「スタジアム・アリーナ改革」を受けて検討が進められた施設となっており、旧来のスポーツ施設とは異なるいくつかの特徴を持っています。多様な観戦体験や収益性の向上、街なか立地などの特徴が挙げられますが、今回はそのなかでも民間活力導入に目を向けてみたいと思います。

いわゆる「官民連携」などの言葉で説明されることの多いスポーツ施設の民間参入ですが、これまで見られたような行政自治体との施設建設・運営の連携にとどまらない新しいバリエーションが実装されています。少々地味にも見えるこのテーマ、深堀りすると未来のスポーツ施設のあり方にもつながっています。キーワードは「社会価値の共創」、民間活力導入の新展開について見ていきます。

スタジアムの民間活力導入ってなんだ?

我が国ではスポーツ施設は地域の体育教育の拠点として長年大事に運営されてきたこともあり、多くのスタジアムは従来自治体が責任をもって施設の維持管理をしてきました。直轄とか直営などと言われるもので、もともと公共スポーツ施設はすべて自治体がその運用を自前でおこなってきました。

ところがこうした公共スポーツ施設は、地域のスポーツ振興拠点であったり体育の教育施設ということもあって、必ずしも儲けを出す必要がなく、維持管理などの費用は必要な予算として計上されてきました。ある意味、公金任せの施設運営は特に大型スタジアムなどで巨額な維持運営費が問題視され、施設の使い方を決めずにつくる「ハコモノ」として批判の的になってきました。

行政自治体が出資した民間企業が運営する「第3セクター」や、運営業務を一部委託する「指定管理者制度」などは今でも多くの施設で導入され、民間が持つ運営ノウハウを取り入れる仕組みも生み出されてきました。鹿島アントラーズが指定管理者となっているカシマサッカースタジアムではスタジアム内にミュージアムやクリニックがつくられるなど他では見られない公共スタジアムの運営がおこなわれてきました。

一方でこれら従来の民間活力の導入手法は、あくまで行政自治体のおこなう行政サービスを委託されている下請けの立場にとどまっていて、民間側からの積極的な運用やそれに伴う設備投資などを受け入れることができない制度上の課題がありました。2010年代に至ってもほとんどのスタジアムでは上手な利用方法や効率的な管理方法などを生かせない状態にあったと言えます。

スマート・べニューが拓いたスタジアムの新たな官民連携

契機となったのは2016年の「スタジアム・アリーナ改革」です。コストセンターからプロフィットセンターへ、と掲げられたスローガンはこれまでの受け身のスポーツ施設運営を見直すことになります。単なる施設管理の下請けだった民間活力導入がカタチを替えて官民を結ぶようになります。

2021年に完成し、2023年にはFIBAバスケットボール・ワールドカップも開催された沖縄県沖縄市の「沖縄アリーナ」では、計画段階から地元プロバスケチームが施設検討に加わり、これまでの公共体育館とはまったく異なるプロ興行に合わせた観客席が計画されました。あくまで公共施設であることをこだわるあまり、それまで計画段階でプロの意見を積極的に取り入れることなどおこなわれていなかったスポーツ施設の新しい検討方法として注目を浴びました。

また2020年に完成した青森県八戸市の「FLAT HACHINOHE」では施設そのものは民間が建設し運営する民間スポーツ施設ながら、その利用方法については行政との連携が注目されました。市民開放や教育利用に活用する時間については地域スポーツ振興を担うものとみなして行政側から使用料を支払い、事業面で公共と民間が連携する仕組みを構築しています。

いまや民間活力導入手法は、スポーツ施設の管理だけにとどまらず施設そのものの設計・建設や施設のファイナンス、事業計画に至るまで多岐にわたる展開を見せています。

公設民営と民設民営、2つのサッカースタジアム

スタジアムへの民間活力導入の最先端事例として、最新のスタジアムである「エディオンピースウィング広島」、「ピーススタジアム長崎」の2つを見比べるとその工夫の違いが見て取れます。

「エディオンピースウィング広島」は公設民営と呼ばれる仕組みで計画されており、公共が建設(公設)し民間が運営(民営)する施設となっています。対する「ピーススタジアム長崎」は民設民営、民間が建設(民設)し民間が運営(民営)する施設です。

「エディオンピースウィング広島」は施設単体で見ると従来型の公設民営スタジアムですが、周辺環境と合わせて見ると事情が異なってきます。基本構想時にはスタジアムパークとも呼ばれていたこのプロジェクト、今年の夏完成に向けてスタジアムと同じくらいの広さの敷地を持つ公園の整備がスタジアムの目の前で進んでいます。この公園はPark-PFIと呼ばれる民間企業によって運営される公園整備の手法によってつくられていて、大きな芝生広場を囲むように憩いの場が設けられています。公園とスタジアムとは地面を盛り上げたような連続するノリ面や屋外スタンド、階段やスロープでつながっています。そして注目すべきはスタジアム2階部分が公園と地続きで開放されている「パークコンコース」と呼ばれる部分で、24時間開放され周囲の公園、河川、商業広場をスタジアムがハブとなって結んでいます。パークコンコースからはスタジアム内部のピッチが垣間見えるなど街全体を循環させるエンジンとして機能しています。

これらは巧みな公共と民間の役割を織り交ぜながら、施設そのものに対しても連携を図ったものであり、国内初とも言える都市近接型サッカースタジアムとして孤立することなく街なかに組み込むことに成功していると言えるでしょう。

一方、「ピーススタジアム長崎」は民設民営の民間施設です。民間企業がつくるものですので一見自由にできそうですが、このスタジアムは実はもっと大きな再開発「長崎スタジアムシティ」の一部にすぎず、2万人のスタジアム、6000人のアリーナ、243室のホテル、60~70店の商業施設によって構成されるまさに街そのものを民間企業がつくり上げているという状況です。ここまで大規模な開発となると全体として公共的な性格を帯びるようにならざるを得ず、パブリックな視点から開発がおこなわれるようになります。

ここでも活用されるのはコンコースであり、各施設の間を縫うようにぺディストリアンデッキが張り巡らされ、スタジアムのコンコースが接続し、街の一部のようにつながります。川に面したスタジアムシティの敷地は両側を山に囲まれた谷地のような立地にあり、海に向かって抜ける景観も相まって、全国でも類を見ない伸びやかなスタジアム環境がつくり出されています。今から秋の完成が待ち遠しいですね。

民間活力のさらなる可能性とは?

民間活力の導入は何も公共との連携方法だけにとどまりません。ボーダーを超えて協力する、いわば「価値共創」の仕組みはさらなる可能性を示してくれます。

大きな話題となっているプロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地である「エスコンフィールド北海道」は土地は公共のものながらも、開発そのものを「共同創造空間」と位置づけ、スポーツを起点とした地域企業同士の「企業協働」を進めています。これまでの開発事業のような一部の事業者の手による計画ではなく、アドホックで柔軟性のある開かれた協働をスポーツによって体現しています。

私自身が座長をつとめる福島県いわき市のいわきFC新スタジアム検討委員会では、実に5000を超えるファン直筆の新スタジアムへの思いを集め、子どもからお年寄りまで誰一人置き去りにしない新しいスタジアム構想を進めています。こうした「市民参加」はスポーツがきっかけだからこそできることかもしれません。集まっている人たちは社会人、学生、芸術家、教授、学生、公務員、子ども……立場はさまざまですが共通してチームのファンでありサッカーのファンであることでつながっています。ここまで多くの属性の人々を束ねるコンテンツは他にないかもしれません。

官民連携をきっかけとしながら民間活力の導入が地域の多様性や包摂性にまで広がっています。これは同時にスタジアムにおける経済性改善をきっかけとしながら、集まった人々の手による価値の共創によって経済的効果だけではない社会的効果につながる端緒となっていると感じます。人を集めて、ともにつなげるスタジアム、今後も全国のスタジアム事例に注目です。

<了>

「エディオンピースウィング広島」専門家はどう見た? 期待される平和都市の新たな“エンジン”としての役割

東京都心におけるサッカー専用スタジアムの可能性。専門家が“街なかスタ”に不可欠と語る「3つの間」とは

スポーツ庁の想定するスタジアム像を超える? いわきFCが挑戦する、人づくりから始まるスタジアム構想

「エスコンフィールドHOKKAIDO」「きたぎんボールパーク」2つの“共創”新球場が高める社会価値。専門家が語る可能性と課題

東京ドーム改修100億円は適正? シティ全体がスタジアムとなる新しい観戦スタイルとは

[PROFILE]
上林功(うえばやし・いさお) 1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチを行う。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所リサーチャー、日本政策投資銀行スマートベニュー研究会委員、スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革推進のための施設ガイドライン作成ワーキンググループメンバー、日本アイスホッケー連盟企画委員、一般社団法人超人スポーツ協会事務局次長。一般社団法人運動会協会理事、スポーツテック&ビジネスラボ コミティ委員など。

© 株式会社 REAL SPORTS