「15ページ目で事件を起こせ」ユニコーン・川西幸一×直木賞作家・今村翔吾×ミステリー作家・今村昌弘のトークバトル【THE CHANGE特別鼎談】

川西幸一・今村昌弘・今村翔吾 

人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞し、コメンテーター、書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。毎年恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第6回/全8回】

※TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで2024年2月10日(土)に開催の「Artistと本vol.3」より

川西幸一(以下川西)「時代小説って漢字が多いし、読むきっかけがないと難しいでしょ。官名とか幼名があったら名前がコロコロ変わったりするし、女性の名前が全部“お”なんとかだったりしてややこしい。でも、そのくらいだから、ホントは難しいことはないんだけど」

今村昌弘(以下昌弘)「そのあたりってミステリー小説についても同じことが言えるんですよね」

川西「昌弘さんの作品は、わりと登場人物の名前が個性的だよね」

昌弘「ダジャレにしてこじつけたりしてます」

今村翔吾(以下翔吾)「僕が以前に出した『茜唄』という本は平知盛が主人公なので、登場人物のほとんどが“源”か“平”ですからね(笑)。それでだいたい名前に“盛”が付くし、わかりにくいんですよね。ミステリーにもそういうのはありますか?」

昌弘「密室で人が死ぬっていうトリックが今までたくさん作られてきたんですけど、作家の側も、読者にはある程度のミステリーの知識があるだろうという前提で書いたりしますね」

翔吾「例えば、本を読んでたらいきなり血しぶきが飛んでるページとかが出てきたりっていうのはない? あと、半分くらい読み進めるとQRコードが出てきて、“それではこの音楽をお聞きください”とか指示があったり。そういう新しいことはやってないのかな」

昌弘「作中作に関しては“血しぶき” はありそうだし、音楽が流れる仕組みは、道尾秀介さんがもうやっていますね」

翔吾「昔は、ミステリーだったら100ページ以内に殺せとかってよく言っていたでしょ。それがどんどん短くなってるっていうのは聞いたことがある。時代小説も同じで、背景があって事件が起こるんだけど、その背景を描いていたら若い読者は離脱してしまうんですよ。だから15ページ目くらいで、ポーンと事件を起こすっていう工夫はしてる。みんなそういうのに慣れてしまって、まったり100ページ何にもないと、ちょっと遅いなあと思ってしまう世の中なんですよ」

昌弘「本当かどうかわからないけど、新人賞の選考はそういうので落とされるなんて聞きますね」

PUFFYはTikTokで本人たちが知らない間に曲が広まった

翔吾「新人賞といえば、今度二つ目の賞の選考委員をやるんですけど……あんまりやるもんじゃないね(笑)。熱量はスゴイんだけど、読むのに力がいるというか、厳しくいこうとすると全部赤点になるから、誉めるところを必死で探すんだけど、それが難しい。でもいいところを見つけないと新しい才能は見つからないんだよね」

昌弘「僕らは新人賞をとったら作家になるっていう道が確保されたりしますけど、ミュージシャンの方は今どうなんですか?」

川西「今でもそういう新人賞みたいなものがあるのかもしれないけど、やっぱり今はネットでしょう。PUFFYがTikTokで本人たちが知らない間に曲が広まったりしたでしょ。アミユミちゃんに会ったとき、どういう経緯だったのか聞いたら“全然知らないの”って言ってたからね」

翔吾「ああいうのって、アーティストにお金は入ってくるんですか?」

川西「確か、何小節以上使ったらいくらっていうのがあったと思うよ」

翔吾「俺らもそういうのなんかやろうぜ(笑)。アメリカでは、YouTubeで作家本人が本を朗読するのが強力なコンテンツになってるんですよ。さっき話題に出たオーディオブックも、俳優さんじゃなくて作家が読んでいるのが配信されていて、それが500万回再生とかになってる。日本ではどうなのかわからないけど、世界的にはそういう傾向にあるみたいですよ」

昌弘「自分が書いたヒロインのセリフは読みたくないな~(笑)」

翔吾「でも昌弘さんの『屍人荘の殺人』が映画化されたときは主演が浜辺美波さんでしょ? いいよなあ(笑)。僕の本も映像化の話がないことはないんだけど、時代劇はとにかく予算がかかるんだよね。時代小説の映像化で難しいのは 、夜のシーンに子役がしょっちゅう登場する場面。夜8時以降は働かせられないからね。それから“船が出てくる”“燃やす”。これをやるともう予算オーバーなんです。僕の『羽州ぼろ鳶組』も、某映画会社の方がすごく熱意を持って映像化したいと言ってくれたんですけど、京都にある時代劇の撮影所を、上司の方に“一部なんですけど燃やしていいですか”って聞いたら、めちゃくちゃ怒られたって言ってました(笑)」

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。

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