高度なドローン活用の実現と拡大にむけ、航空運送事業で培った運航管理のノウハウを生かす

by 青山祐介

鹿児島県瀬戸内町と日本航空は、ドローンの運航会社「奄美アイランドドローン(AID)」を設立。住民たちがドローンを見送る様子。

日本航空は2018年頃からドローンの社会実装に向けた取り組みを始めており、2020年10月には奄美瀬戸内町と連携協定を結び、離島への物資輸送実験を開始。また、無人航空機を安全に管理・運航できる人財育成講座「JAL Air Mobility Operation Academy(JAMOA)」の提供を同月に開始するなど、日本を代表する航空会社として運航ノウハウなどを生かす形で、物流を中心にドローンを使った実証実験に取り組んできた。特に2022年2月にKDDIと運航管理の体制構築やビジネスモデルの共同検討に関する基本合意書を締結して以降、KDDIスマートドローンと、ドローンの社会実装を加速すべく、高度なドローン活用の実現にむけ、さまざまな実証実験に取り組んでいる。

2022年には、東京都に採択された「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」にて、都内で初めて、隅田川に架かる永代橋など複数の大橋をドローンで横断する医薬品配送の実証実験を行った。
2023年12月には、東京都西多摩郡檜原村にて、医薬品をドローンのレベル4飛行で輸送する実証を実施した。

日本航空がKDDIスマートドローンに出資する形で提携

2022年8月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(ReAMoプロジェクト)」における「ドローンの1対多運航を実現する機体・システムの要素技術開発」に、両社の提案が採択され、ドローンの社会インフラ化に向け、1対多運航の実現を目指す取り組みを開始すると発表。2023年2月には両社を含む6社が、東京都あきる野市においてドローンによる医療物資輸送の長期運用実証を実施している。また、同年6月には両社とイオンリテールが、2025年に長野県下諏訪町に開店予定のイオンリテールの店舗において、ドローンを活用したリテール領域の実証を開始することを目指し、社会実装に関する検討の協定を締結している。

そして2023年11月、日本航空はKDDIスマートドローンと業務提携契約を締結。同時に、日本航空とKDDI、KDDIスマートドローンの3社は、資本提携契約を締結の上、日本航空が第三者割当増資でKDDIスマートドローンが発行した株式を取得している。日本航空とKDDIスマートドローンは、目視外飛行や一対多運航といった高度なドローン活用の社会実装を目指して、ドローンの運航管理や空域管理に関するシステムやサービスの構築と、ドローンの運航管理に関する研究開発とオペレーション体制の構築に取り組むと発表。2024年度内に、ドローン運航者を支援するソリューション・サービスを提供するとしている。この両社の提携の狙いについて、日本航空のエアモビリティ創造部部長 村越仁氏、同部ドローン事業グループ長 加納拓貴氏に聞いた。

今後のドローンの社会実装に欠かせない遠隔運航と一対多運航

「ドローンが安全かつ効率的に飛ばせるための基盤を創っていかないと、本当の意味でドローンが普及するとは言えない」という村越氏。特に両社が掲げる“目視外遠隔自律運航”と“一対多運航”を実現するためには、これらの方法で安全かつ効率的な運航を実現するシステムと運航体制、そしてルールが確立される必要がある。今回の提携により両社の強みを生かしながら、安全・安心なシステム、ルール、そして運航体制を構築することが目的だという。

この遠隔運航と一対多運航は、ドローンが、物流はじめ、より広い分野にて社会実装されるためには欠かせない要素だとしている。「現在のドローンが飛行距離とペイロードが極めて限られている中で、操縦者の目の届く範囲でパイロットの腕に頼ったマニュアル操縦で、かつ、一人が一機のドローンを飛ばす体制では事業性に限りがある」「航空運送事業では、旅客や貨物を、いかに安全かつ効率的にお運びするのか、徹底的な運航・安全管理体制や人財づくりをしながら事業性も両立させ、社会インフラとなった。産業ドローンの世界でも、安全を確保したうえで、多くの機体を少人数で制御するなど省人化を図り、高密度かつ高頻度、さらにはオンデマンド、そして面的に使えるようにしないと、期待されるような社会インフラに育たない」(村越氏)としている。そのためにKDDIスマートドローンによるシステムと通信、そして日本航空による安全な運航管理のノウハウを活用し、ソリューションを開発するというのが、今回の提携の狙いである。

運航管理ツールパッケージの提供によりプラットフォーマーを目指す

ただし、日本航空の考えるこの将来の絵姿は、必ずしもすべてのフェーズで人が一切関与しないような、全自動による運航を描いているわけではないという。とくにそこに至る過程では、人とシステムの関わりの中で、ヒューマンエラーをコントロール、マネジメントする“マン・マシン・インターフェース”が重要だとしている。「例えば、遠隔運航になると、ドローンが直面する状況をデータとして把握し、それを遠隔地のパイロットが分析してGo or No-Go(決行か中止を決定すること)を判断する必要がある。これに、これまでのドローンを飛ばすのとは違うスキルが必要になってくる」(加納氏)という。

日本航空のドローン事業グループでは、こうした航空運送事業のオペレーションにて培ってきたスキルを備えたうえでドローン操縦を担っている。今後、ドローンの社会実装を全国に広げていくには、こうしたスキルを持った人材を養成する必要がある。日本航空ではこの提携を通じて、プロシージャーを含むマニュアルの構築や人材育成体系を構築し、実際にドローンを運航する事業者を支援するメニューをパッケージ化して提供していく考えだ。

「旅客機というのはパイロットが主体的に飛ばしているというのは事実だが、実は飛行する前からさまざまなリスクを想定し、そのために必要な飛行計画を立て、飛行を監視し、常にGo or No-Goを判断している」(加納氏)といい、ドローンを遠隔運航するにあたっても、飛行計画や運航のプロシージャーの作り方は、航空運送事業において普段行っている運航管理に驚くほど似ているという。それだけに、今後、KDDIスマートドローンとともに、この運航管理のノウハウを形にして、システムに組み込んでいく。日本航空ではこのノウハウが詰まった運航管理のツールをパッケージにして提供し、同時に、全国各地の空域において飛行を調整する「トータルプラットフォーマーとしてのポジションを担っていくことが日本航空のドローン事業、ひいてはeVTOLも含めたエアモビリティ事業戦略」(村越氏)としている。

なお、日本航空とKDDIスマートドローンは、ReAMoプロジェクト「1対多運航を実現する機体・システムの要素技術開発」への参画はじめ、高密度・高頻度飛行となる空域を調整する運航管理技術の開発・実証にも取り組んでいる。国は、2025年頃には、同一空域にて、複数の運航者による安全かつ効率的な飛行を可能とする認定UTM(ドローン運航管理システム)プロバイダ制度を整備するとしており、こうした官民挙げての環境整備に、両社が取り組む成果が生かされていくことが期待される。

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