『SMAP×SMAP』放送作家20年の鈴木おさむが語るタクヤ「渋谷パルコ前」事件と「オレが中居だ」騒動、息子に伝えたい『アルマゲドン』

撮影/小島愛子

2024年3月31日、その男は筆を置いた。20年と9か月続いた国民的グループのバラエティ番組、スマスマこと『SMAP×SMAP』で放送作家をつとめ、オートーレース界に森且行が去りし後、メンバーから“6人目のSMAP”とまで言われた鈴木おさむ、その人である。
バラエティ番組『めちゃイケ』『¥マネーの虎』『お願い!ランキング』『Qさま!!』、ドラマ『人にやさしく』『M 愛すべき人がいて』『離婚しない男』など数々の大ヒット番組や、国民的な海賊マンガ「ONE PIECE」の劇場版『ONE PIECE FILM Z』の脚本などを手掛けたことで知られる彼が、SMAPの小説『もう明日が待っている』と、テレビ界への遺言ともいえる『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)を置き土産に、放送作家を辞めるという。
なぜなのか。日本列島を笑いと感動で包み込んだ大ヒットメーカーの、断筆に至るまでの「チェンジ」と、放送作家を卒業後の「ビジョン」に迫った。(全5回 第1回)

『SMAP×SMAP』にピリオドをつけてあげたかった

――鈴木さんが執筆された国民的アイドルグループSMAPを題材にした小説『もう明日が待っている』が大ヒット中です。鈴木さんとメンバー6人との出会いから、モリの脱退、タクヤの結婚、マイケル・ジャクソンから高倉健までスマスマに出演した国内外のビッグスターとの邂逅、東日本大震災発生10日後の生放送、そして2016年1月18日の謝罪放送まで、鈴木さんしか知りえない舞台裏が、小説の形を借りて描かれています。なぜ、この本をお書きになろうと思ったのでしょうか?

2022年の12月の『文藝春秋』で、『もう明日~』の第8章にあたる「20160118」の部分、彼らの「あの放送」について書いたんです。当時、文藝春秋の編集長だった新谷学さん(現・文藝春秋総局長)に書いてほしいと頼まれたんですけど、最初はそんなことを書いてはいけないだろうと思ったんですね。
でも、自分の中でこれを書くことで、(あの放送は何だったのだろうかと)モヤモヤしているファンの人たちに対して、1滴の希望を与えることができるかもしれないと考えたんです。もちろん、これを書くことによって「仕事がなくなるかも」と思いましたが、それよりも、自分の作家の部分の「挑んでみたい」という気持ちに従いました。
書いて、まあ…スッキリして。発表した当時、いろいろとザワつきましたが、その後、自分が放送作家を辞めることを決めた後、この物語を完成させてみたいと思ったんです。
『SMAP×SMAP』という番組は、最終回は5時間半のスペシャルなんですけど、新撮(新しく撮った部分)があんまりなかったので、自分も含めて丸、句点を本当の意味でつけられていなかった人も多かったんじゃないかと思うんです。『もう明日~』を完成させたことで、点、読点ではなく、丸、句点、ピリオドをつけてあげることができるんじゃないか、そう思って書きました。

タクヤが「一瞬で気づかれる方法教えてやろうか?」

――ファンが知らないメンバーたちの秘話が満載でした。たとえば、小説に登場するタクヤですが、ロケの合間に、鈴木さんとタクヤと2人で買い物に行こうと渋谷のパルコ前の交差点に立ったときの逸話に衝撃を受けました。 帽子もマスクもサングラスもしていない彼が立っているのに、誰にも気づかれない。街には、彼の服装を真似た偽タクヤがあふれていたことも原因の一つでした。彼に鈴木さんが「全然気づかないんだね」と言うと、「一瞬で気づかれる方法教えてやろうか?」とヤンチャそうに笑って、交差点の反対側に立つ女性の目を見つめ出す。すると、その女性は「え!?」となり、本物が立っていることに気づいて黄色い声を上げると、その気づきが交差点にいる女性たちに一気に伝わっていって、数秒のうちに全員が鈴木さんの横に立つ、本物を見て「キャ~」となる。その光景を、「モーゼの海割り」的なものと表現されていました。まさに、ザ・スターですね。他にも、彼がサッカーW杯に初めて出場する選手に送った言葉など「胸が熱くなる」エピソードがたくさんありました。まだ、書かれていない秘話はありますか?

『もう明日~』と同時期に発売になった『最後のテレビ論』でも、彼が熱湯風呂に挑戦する話や全力坂50本チャレンジ、年末年始トマト生活など、けっこう書いてます。今回の2冊で、彼のすごいと思ったことは全部、書きました。

――では、スマスマのゲストで訪れた国内外の大スターたちの知られざるエピソードは、他にありますか? 『最後の~』の中で、映画『メン・イン・ブラック』『ALI アリ』などで知られるハリウッド俳優のウィル・スミスは、何度目かの出演の際に、コントでセリフがあることを知って「今日は帰って、明日来る」と言って、その夜に2時間半の猛特訓。苦戦していた「オレが中居だ!」のセリフを完璧にやり切ったとか。それを鈴木さんは、「どんなバラエティ企画であろうとも“演じる”となったら、魂を削って完璧にやり切らないといけない。それが俳優だ」と、表現されています。

今回、僕も知らないことも含めて相当、取材して書いたんで、面白いと思うことは、全部書きました。実は、僕も知らない話だったんですね、ウィル・スミスの話は。

こんな仲間がいたことが本当に誇らしくなった

『もう明日~』の中に、黒林さんという人が出てくるんですけど、ご病気で2月に亡くなった黒木彰一さんというフジテレビのプロデューサーさんのことなんです。
書いているときからスタッフ、仲間たちの物語を書こうと思って書いていたんですが、書き終えたときに、より感じたのは、これは彼らSMAP5人の物語でもあるし、SMAPマネージャーの飯島三智さんの物語でもあるけど、僕と仲間たちの物語だなって思ったんです。そのときに、僕にこんな仲間がいたことが本当に誇らしくなったんです。
だから、息子の笑福に、今まで作ったものを見てほしいと思ったこともなかったですけど、将来ふとしたときに、彼がこの本を読んで「お父さんには、すごいかっこいい仲間がいたんだな」みたいなことが伝わればいいなと思いました。
たとえるなら、ブルース・ウィリスの映画『アルマゲドン』みたいな感じ。地球を救うために、死ぬことを恐れずに宇宙船に乗り込む。結局、最後は死んじゃうけど、あれって、僕の中で理想の父親像でもあったりするんですよね。

すずき・おさむプロフィール
1972年4月25日、千葉県生まれ。19歳のときに放送作家になり、それから32年間、さまざまなコンテンツを生み出す。2024年3月31日に、放送作家を引退。著書に『仕事の辞め方』(幻冬舎)、そして大ヒット中の『もう明日が待っている』『最後のテレビ論』(共に文藝春秋)などがある。現在は、「スタートアップファクトリー」を立ち上げ、スタートアップ企業(急成長をする組織、会社)の若者たちの応援を始めており、コンサル、講演なども行う。

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