「不安しかない」など切実な声ーー個人事業主に聞いた「消費税申告」アンケート調査

税理士ドットコムが個人事業主に行ったアンケート結果

2023年10月からインボイス制度が導入され、半年が経った。ある報道によると、2024年は約140万の事業者が初めての消費税の確定申告を行うといわれている。

そこで税理士ドットコムは、今年消費税申告を行った・行う予定の会員の個人事業主139名に対してアンケートを実施した。質問概要は以下のとおり。

【質問概要】
・インボイス発行事業者への登録状況
・消費税申告は今年が初めてか
・申告書の作成、提出した方法
・消費税の計算や経理処理の方法
・消費税申告で参考にしたもの
・苦労した、困ったこと

気になる結果の詳細を、さっそく見ていこう。

●「今年初めて消費税申告をする人」は約65%

アンケートではまず、「インボイス発行事業者への登録状況」について質問。「登録している」と回答したのは約79%で「今後登録申請する予定」と合わせて8割を超える結果となった。

一方で「登録していない」と答えた人も約16%と一定数いることがわかった。

問:インボイス発行事業者への登録状況について教えてください
【1】登録している 79.1%
【2】今後登録申請する予定 2.2%
【3】登録申請するかまだ決めていない 1.4%
【4】登録していない 15.8%
【5】その他 1.5%

次に、消費税申告を行うのは今年が初めてかを伺うと、「はい」と回答した人は実に65%にのぼった。インボイス制度導入により、新たに消費税申告を行う人が増えていることがわかった。

問:消費税申告は今年が初めてですか?
【1】はい 65.5%
【2】いいえ(今年初めてではない)34.5%

「消費税の申告について誰が行ったか」という質問に対しては、「事業主本人」が約78%と最も多く、「その他従業員」「顧問税理士」約8%を大きく上回る結果となった。

問:消費税申告はどなたが行いましたか?

【1】事業主本人 78.4%
【2】その他従業員 7.9%
【3】顧問税理士 7.9%
【4】顧問ではない別の税理士 4.3%
【5】その他 1.5%

「どのような方法で消費税の申告書を行ったか」という質問に対しては、「市販の会計ソフトで作成」した人が5割を超える結果となった。一方で「確定申告作成コーナー」や「e-Taxソフト」といった国税庁の申告書作成システムを利用した割合は、合わせて27%程度だった。

問:どのような方法で申告書の作成を行いましたか?

【1】市販の会計ソフトを利用 54.7%
【2】国税庁の「確定申告作成コーナー」を利用 15.1%
【3】税理士に依頼して申告書を作成 13.7%
【4】e-taxソフトを利用 12.2%
【5】税務署等で入手した申告書で作成 2.2%
【6】その他 2.1%

「その他」の回答内容には、「商工会議所で作成」や「税務署にお手伝いして頂いた」などのコメントが寄せられた。

次に、「消費税の申告書の提出方法」について質問をしたところ、実に79%の方が「e-Taxを利用」と回答した。 申告書の提出は税務署に行かずに手軽に利用できるe-Taxが、多くの人に浸透していることがわかる結果となった。

問:申告書の提出はどのような方法で行いましたか?

【1】e-Taxを利用 79.1%
【2】申告書の作成代行をした税理士が提出 10.1%
【3】窓口に持参 7.2%
【4】郵送 3.6%

●消費税の計算は「2割特例」が49%、「原則的な計算方法」が29%

消費税申告において、「消費税の計算をどの方法で行ったか」について問うと、約5割が「インボイスの2割特例」と回答し、「原則的な計算方法(一般課税・本則課税)」29%、「簡易課税」20%と次ぐ結果になった。

問:消費税の計算は、どの方法で行った・行う予定ですか?

【1】インボイスの2割特例(軽減措置) 48.9%
【2】原則的な計算方法(一般課税・本則課税)28.8%
【3】簡易課税 19.4%
【4】その他 2.9%

「その他」の中には、「税理士に依頼したので(わからない)」「2023年分までは一般課税、それ以降は簡易課税」という回答もあった。

なお、「インボイスの2割特例(軽減措置)」の適用期間は2026年9月末までとなっている(参考:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm)。

次に、「消費税の経理処理をどの方法で行ったか」という質問に対して、約8割の方が「税込経理方式」と回答し、「税抜経理方式」14.4%を大きく上回った。

問:消費税の経理処理は、どの方法で行った・行う予定ですか?

【1】税込経理方式 82.0%
【2】税抜経理方式 14.4%
【3】その他 3.6%

「その他」は、「わからない」「税理士に依頼しているので不明」という回答だった。

●税理士のYouTubeチャンネルを参考にしている人も

申告書の作成を誰がどのように行ったかに関わらず、消費税申告についての知識は事業者本人もある程度習得しておく必要があるだろう。

そこで「インボイスや消費税に関する理解度」について質問。結果、6割が「まあまあ理解している」と回答し、「理解している」を合わせると7割を占めた。「あまり理解していない」「理解していない」は3割弱となった

「インボイスや消費税に関する理解度」という質問に対して、6割が「まあまあ理解している」と回答し、「理解している」を合わせると7割を占める結果に。「あまり理解していない」「理解していない」は3割弱となった。

問:インボイスや消費税申告について、ご自身の理解度はどのくらいですか?

・理解している 12.2%
・まあまあ理解している 60.4%
・あまり理解していない 25.9%
・理解していない 1.5%

「消費税申告の際に参考にしたもの」について伺ったところ、最も多く回答が集まったのは「国税庁のホームページ、税理士など有資格者のブログ、会計ソフトのヘルプページ等のwebサイト」51%で、次いで「YouTubeやXなどのSNS」35%という結果に。

忙しい個人事業主にとっては、書籍や相談会、セミナーよりも、場所や時間にとらわれず手軽に調べられるインターネットでの情報活用がなにかと便利なようだ。

問:消費税申告に際して、参考にしたものがあればお教えください(複数選択可)

【1】国税庁のホームページ、税理士など有資格者のブログ、会計ソフトのヘルプページ等のwebサイト 51.1%
【2】YouTubeやXなどのSNS 35.5%
【3】上記【1】以外のwebサイト 25.9%
【4】国税局や税務署の相談サービス、セミナー 20.1%
【5】会計ソフトのベンダーやその他企業の相談会、セミナー 18%
【6】書籍、雑誌 15.1%
【7】青色申告会・商工会・商工会議所の相談サービス、セミナー 10.8%
【8】顧問税理士以外の税理士や専門家への個別相談 8.6%
【9】申告業務を依頼した税理士への個別相談 7.9%
【10】税理士会の相談サービス、セミナー 2.2%
【11】その他 0.8%
【12】特にない9.3%

参考にしたものの具体例は以下のとおり(抜粋して紹介)。

特にYouTubeでは、ヒロ(田淵宏明)税理士、山田真哉税理士のチャンネルを参考にしたとの声が多数挙げられた。

<webサイト>
・弥生
・freee
・マネーフォワード
・マイナビ税理士

<YouTubeやXなどのSNS>
・税理士YouTuberチャンネル!! / ヒロ税理士
・オタク会計士ch【山田真哉】少しだけお金で得する
・脱・税理士スガワラくん
・税理士河南のYouTubeチャンネル!

<書籍>
・60分でわかる! インボイス&消費税 超入門
・図解消費税法
・実務消費税ハンドブック
・フリーランス・個人事業の青色申告スタートブック
・はじめての消費税申告

<相談会、セミナー>
・フリーランス協会
・税務署の相談会

●「何が何だかわからない」「何度も税務署に確認」など苦労の声

「今年の消費税申告で実際に苦労したこと」について質問をすると、「税法の理解」という回答が半数を占め、「領収書やインボイスの保存・管理」38.9%、「会計ソフトの使い方」36.0%が続く結果となった。

今年初めて消費税申告をした人の回答が多いことから、慣れない消費税申告に苦戦したことが読み取れる。

問:今年の消費税申告で苦労したこと・困ったことはなんですか?(複数回答)

【1】税法の理解 46.0%
【2】領収書やインボイスの保存・管理 38.9%
【3】会計ソフトの使い方 36.0%
【4】消費税や仕入税額控除の計算 35.3%
【5】申告書の書き方 28.1%
【6】作業時間の確保 27.3%
【7】計算ミスや申告漏れの対応 21.6%
【8】特に苦労したり困ったりしたことはなかった 10.0%
【9】税務署、税理士の対応 8.6%
【10】その他 5.8%

次に「税法の理解について下記の中で当てはまる状況があるか」について質問した。消費税の税法において初心者がつまずきやすいであろう事項を編集部でピックアップしたものだが、「当てはまるものがない」と答えた人が約半数にのぼるなど、多くの方が消費税への理解を深めていることがわかった。

一方で「消費税額の計算方法について、割戻し計算と積上げ計算のどちらを選べば有利になるかを特に考えず選択してしまった」14%など、初めての消費税申告で税法の理解に苦労した様子も伺える。

問:「税法の理解」についてお伺いします。下記の中であなたに当てはまる状況はありますか?(複数選択可)

【1】消費税額の計算方法について、割戻し計算と積上げ計算のどちらを選べば有利になるかを特に考えず選択してしまった 14.4%
【2】税込経理方式では消費税が経費になると知らず、消費税を経費計上しないで所得税申告をしてしまった 12.9%
【3】インボイス制度に登録したが、基準期間の課税売上高が1000万円以下なので消費税申告は必要ないと思っていた 10%
【4】もともと課税事業者なので、インボイス登録の必要がないと思っていた 8.6%
【5】2023年の途中でインボイス登録したが、2023年1年分の消費税の申告が必要だと思っていた(申告してしまった) 6.5%
【6】課税事業者になったのに伴い、税込経理方式から税抜経理方式に変更しなければいけないと思っていた 6.5%
【7】簡易課税や2割特例は売上から消費税が計算できるので、インボイスの保存が必要ないと思っていた 4.3%
【8】課税売上の対象とならない売上(非課税取引・不課税取引)を除くのを忘れたため、消費税を多く申告してしまった(しそうになった) 4.3%
【9】インボイス制度に登録したが、所得税が赤字になるので消費税申告は必要ないと思っていた 3.6%
【10】当てはまるものはない 49.6%
【11】その他 5%

「上記の状況以外で、苦労したこと・困ったこと」についての具体的なエピソードは以下のとおり(一部抜粋)。どれも身につまされるエピソードとなっている。

・初めての消費税申告だったので、どのように書類を作ればいいのか、2割特例はどのように扱えばいいのか、はじめの頃は全く分からず、あちこち調べた

・初めての消費税申告で、申告スケジュールや会計ソフトの使い方、勘定科目入力に手間取った

・初めての消費税申告のため、何が何だかわからないままで、今もきちんとできたか不安しかない

・税務署の説明会が平日勤務時間のみで参加できず、休日や夜に開催してほしかった

・税務署に電話がつながらなかったため、消費税申告が正確かどうかわからない

・申告書に記載する内容が分かり辛く、何度も税務署に確認した。結局、分からない所は空白で提出し、税務署側で記載してくれることになった。

・2割特例と本則課税の有利判定

・ある程度知識を得たと思っていたが、いざ申告書類を書き始めると、不明点が多数出てきた。国税庁のホームページだけでなく、複数の事業者のサイトを見て何とか書き上げた

・申請書作成、申請のどこで2割特例を選べるのかわかるまでに時間がかかった

・クラウド経理ソフトについて、税抜き/税込、繰り上げ、切り捨てなどの設定方法税の種別など分からないことだらけで困った

・会計ソフトで消費税の申告書を作成したが、見方がわからず合っているか不安

・会計ソフトを使用しているが、インボイス登録後ソフトの仕様も変わるなど、やり方が合っているのか不安

・以前から課税事業者だが、インボイス導入で消費税の計算方法が変わり、理解に苦労した

・課税売上の対象になる売上、ならない売上の分別がわからず、調べるのが苦労した

・還付となったが、還付してもらうための申請書が会計ソフトでは未対応で、初めての消費税申告であることから間違えて記入してしまい、やり直しになった

・免税事業者の期間中に仕入れた棚卸資産の仕入税額控除について、適切な計算方法が分からなかった

・割戻し計算の理解がうまくできず、何度もこれが本当に正しいのかで悩んだ

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最後に、回答者の「売上高」と「該当する業種」についても伺った。

「売上高」については、「1000万円以上」が32.4%、「300万円未満」が30.2%と僅差で続く結果に。

一方で、「今年初めて消費税申告をした人」の売上高は、「300万円未満」が35.2%と最も多く、「消費税申告は今年初めてはない人」は、「1000万円以上」が54.2%と最も多かった。このことから、今年初めて消費税申告をした人は、インボイス制度導入を理由に、課税事業者となったケースが多いことがわかる。

問:昨年度の売上高をお教えください

・消費税申告は今年が初めて
【300万円未満】35.2%
【300万円以上500万円未満】19.8%
【500万円以上800万円未満】18.7%
【800万円以上1000万円未満】4.4%
【1000万円以上】20.9%
【回答したくない】1%

・消費税申告は今年が初めてではない

【300万円未満】20.9%
【300万円以上500万円未満】8.3%
【500万円以上800万円未満】8.3%
【800万円以上1000万円未満】8.3%
【1000万円以上】54.2%

回答者の「業種」については以下のとおりとなっている。

・その他サービス業…17.3%
・流通、小売…10.1%
・運輸、物流…8.6%
・IT、WEB関連…7.9%
・建設関連…7.9%
・士業(弁護士・税理士・社労士・司法書士など)…6.5%
・漫画家、イラストレーター、アニメーター、作家…5.0%
・飲食…4.3%
・コンサルタント…3.6%
・出版、マスコミ…3.6%
・農業、林業、漁業…3.6%
・芸能…3.6%
・製造…3.6%
・ネットショップ(EC)…2.9%
・教育関連…2.9%
・美容…2.2%
・その他(アミューズメント・レジャー、売電事業、不動産、旅館・ホテルなど宿泊 など)…6.4%

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●さまざまな苦労を経て申告業務を終えた声が多数

本アンケートは、消費税申告の期間が終了した2023年4月15日〜19日に実施。ほとんどが「消費税の申告を終えた」と回答したが、「これから行う」と回答した人も2.2%いた。

また、昨年10月からのインボイス導入を期に、初めての消費税申告をした方が7割弱にのぼり、様々な苦労をして申告作業に挑んだことが伝わる結果となった。

今年の消費税申告を経て、対応に不安を感じている方は、早めに情報を収集して悩みを解決しておくほか、税理士に相談するなど、なんらかの対処をする必要がありそうだ。

※アンケート実施期間:2023年4月15日〜4月19日、調査方法:税理士ドットコムに登録のある個人事業主に対しインターネットで実施、有効回答数:139

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