J3唯一の10戦無敗で首位快走のアルディージャ、好調の要因は? “無敵大宮”のまま1年でのJ2復帰へ

捲土重来を目ざす大宮が、J3唯一の無敗で首位を快走中だ。

ここまで10試合を戦い、7勝3分の勝点24。今季から加入し、さっそくチームの顔となった元日本代表FW杉本健勇が「欲を言えば勝点30を取りたかったけど、いろいろなプレッシャーもあるなか、開幕して最初は硬かったのが、みんなよくここまでやっていると思う」と振り返る。自身は10試合すべてで先発すると7試合はフル出場し、5ゴール、2アシストと攻撃の柱を担う。

大宮は昨季、クラブ設立25周年の節目でJ3に降格した。2016年にはJ1で5位になったこともあるだけに、残念すぎる結果だった。そこから這い上がるため、今季は“J3優勝、J2昇格”を掲げて1年での復帰を誓う。新任の長澤徹監督は「今年の大宮は限界まで戦う。これだけは約束します」と新体制発表で言い切った。

その言葉どおり、スタートダッシュに成功した。

好調の軸として目を向けたいのは、守備面だろう。昨季はJ2で2番目に多い71失点を記録し、長澤監督はチーム始動時から「当事者」を意識させてきた。71失点のうち、数本でも防げていれば結果は違っていたかもしれない。「シュートと一緒で『一番、最後の対応はどうなの?』」と選手に問い掛けながら整備を進め、現在はJ3で2番目タイに少ない6失点だ。

【PHOTO】熱い応援でチームを支える大宮アルディージャサポーター
たとえば、プレシーズンの沖縄合宿では、柔らかいボールを使うなどして特訓を重ねた。大宮U-18から昇格したルーキーで主力を張る市原吏音は「シュートする選手に一歩でも近づいてプレッシャーを掛ける、ずっと避けないで身体に当てるとキャンプから叩き込まれた」と明かす。「最後に自分たちも当てる自信はある」とまでになった。

「ボックスディフェンス」(濱田水輝)にも、よりこだわっていると浦上仁騎は言う。

「元々、できる選手はいるけど、(ディフェンスについて)免疫がついていない選手もいた。練習から落とし込んだことで、『この選手がそういうディフェンスするんだ』『できるんだ』というシーンもあったし、それは確実に練習の効果だと思う」

さらに、攻撃陣も加わって守備に奔走している。

フィールドプレーヤーではただ1人、開幕からフル出場する小島幹敏は「守備の時にすごく活気がある」と実感。「健勇君や(藤井)一志らフォワードがめちゃくちゃ距離を走っている。プレスバックもそうだけど、福島戦でサイドの(中野)克哉がゴール前まで戻ったり。それがすごいし、球際も含めて原点に返ったような根底というか、大事なところの質が上がっている気がする」。

「賞賛を浴びるのは点を取った人になるが、僕らの世界では意外に逆だから」と長澤監督。「勝負を決めるプレーは反対側にある。そこも理解はして、価値を持ってやっているとは思う。ミーティングでちゃんと褒めているから大丈夫です」と目を細めた。ハイプレスを仕掛けつつも、水際はしっかりと守り抜く頼もしさがある。
攻撃面では、チームはJ3で4番目に多い17得点をマークし、毎試合で先制点を奪っている。チームトップスコアラーの杉本は「ゴールに目が行きがちだけど、シュートブロックなどは守備の選手がたくさんやってくれている」と堅守に感謝。「その分も前は点を取らないといけない」と、フィニッシュだけでなく、ポストプレーやチャンスメイクなどでも走り回る。

このほか、泉柊椰や中野誠也、藤井に泉澤仁と攻撃陣が点を決めた一方、守備陣も良い働きを見せ、17得点中6得点がDFの選手たちのゴールだ。濱田、市原が決めたセットプレーだけでなく、SBの茂木力也と下口稚葉の得点は攻撃参加したからこそ。攻守にわたって助け合い、相乗効果を生み出しながら戦えていることの影響は大きい。

また、メンタル面の向上も好調の下支えになっている。杉本はこう話す。

「目の前の相手に負けないというところや、この試合に絶対勝つとか、そういう気持ちの部分、闘志みたいなものが、僕はもっと『出せ、出せ』と思っていて、個人個人で徐々に出てきている。やはり本当にチームが活気づくんですよ。そういう選手がいると燃える。一人ひとりの要求も増えてきているし、良いと思う」

小島も続く。「1点差で勝っている時や、ラスト10分などの雰囲気がすごいんですよ。ヒリヒリ感が」と嬉しそう。「カウンターを食らいそうなミスがあったら、めちゃくちゃ『おい!』みたいな感じで何人かが怒るみたいな。良い雰囲気だなと思う。俺もちょっと言っていますよ。勝ちに対しての雰囲気がすごく良くて、それが今、良いなって」。

長澤監督は10試合を一区切りとし、そこでの戦いぶりで立ち位置が決まるとしていた。選手たちが手応えを深めて首位に立ち、長澤監督は「自分たちは自分たちのやるべきことを、というところで上を見なくていいという感じかな。自分たちに集中していける」とする。「この次の10試合がまたすごく大事になるので、しっかり戦っていきたい」とした。

キャプテンの石川俊輝は「チームとしても個人としてもそうだけど、まだまだ過程」と甘んじることはない。下口は「テツさんはしっかり戻ることやボールに寄せることなど、難しいことではなくて『当たり前のことをどれだけ追求できるか』というところを求めている」と、今後も妥協なく突き詰めるつもりだ。

元ポーランド代表のシュヴィルツォクや泉澤、富山貴光と負傷離脱していたアタッカーも戻ってきた。攻撃力アップが期待でき、大宮の脅威は増していくだろう。

まずは4月27日に敵地で行なわれる次節の3位・今治との上位対決が大切。古巣戦になる下口は、「『この試合がラストなんだ』というぐらいの気持ちでと、長澤監督に話してもらった。どれくらいの気持ちを懸けられるか」と集中を保つ。

残りは28試合。ここから先も応援歌のタイトルのように、“無敵大宮”のまま目標達成へと突き進んでいきたい。

取材・文●松澤明美(大宮花伝)

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