自らハンドル握り遠征へ、練習場も転々…2軍新球団オイシックス監督が受け入れる“格差”

橋上監督は少しでもうまくなりたい選手にとことん付き合っている【撮影:羽鳥慶太】

オイシックスを率いる橋上秀樹監督は、遠征時に自らハンドルを握る

プロ野球の2軍には、今季から新たに2球団が参加し計14球団で戦っている。イースタン・リーグへの新規参加が認められたのが、昨季まで独立のBCリーグで活動してきたオイシックス新潟アルビレックスBCだ。開幕からなかなか白星を伸ばせなかったものの、4月に入って初の4連勝を記録するなど調子を上げている。NPBのドラフト指名を目指す若手に、実績あるベテランも加えたチームは何を目指して戦っていくのか。チームを率いる橋上秀樹監督に聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部、羽鳥慶太)

NPB球団の2軍と同じ土俵には立ったが、環境の違いは明らかだ。オイシックスは専用の練習場を持たず、練習日にはグラウンドを求め点々とする。多くのチームが本拠を置く関東地方への遠征はバスで5時間以上かけ、試合当日の早朝から移動することもしばしばだ。その際は、橋上監督もコーチ、スタッフを乗せた自動車のハンドルを握る。

「ひとりに負担をかけるわけにもいかないから、交代でやってますよ」とさも当然のように口にするが、新幹線で新潟を訪れ、前泊もするNPB球団との差は大きい。「私はNPBの2軍も知っていますが、全く同じにとは望んでいません。そこは理解して入ったつもりです」。

NPBが2軍の拡張を目指すという構想は2022年のオフに持ち上がり、昨春の参加球団公募には全国から手が上がった。2007年からBCリーグで戦ってきた新潟にとっては、千載一遇のチャンスだった。橋上監督は、最初に構想を聞いたときの心境をこう振り返る。

「入れれば新潟にとってはプラスになる。それは間違いない。でもイースタン・リーグに入るのは並大抵のことではないのもわかっていましたからね。経営的な心配もありましたし」。独立リーグとは試合数も、移動距離も桁違いになる。チームを預かる指揮官として、決して喜びだけではなかった。

「勝ち負けだってそうです。普通に考えれば、NPBの選手はドラフトにかかった選りすぐり。まともに戦えたらおかしい」という指揮官の言葉通り、シーズン開幕直後はオイシックスの選手たちに、技術的にも精神的にも圧倒される様子が見えたという。開幕から4連敗スタート。3月は2勝8敗1分と大苦戦した。

最大140試合に及ぶシーズンを戦い抜くため、選手数は独立リーグで戦った昨季の1.5倍ほどに増えたが、続けて在籍する選手も多い。NPBの2軍と日常的に対戦することで明らかになるのは、ドラフト指名を「受けた選手」と「受けられなかった選手」の違いだ。

侍ジャパンから独立リーグまで、球界の様々な部分を見てきた橋上監督【撮影:羽鳥慶太】

ドラフト指名へ乗り越えなければならない壁「あらゆるスピードが違う」

「野手で言えば、あらゆるスピードがNPBの選手とは違うんです。ファームといえど。投球もそうですね。NPBの選手は簡単に150キロを出す。打球の速さや守備のチャージもそうですし、動きのキレやスピード感も違う。オイシックスの選手たちはまだ、そこに戸惑っている印象ですね」

この違いは、NPBを目指す選手たちにとってみれば、乗り越えなけければならない“壁”を意味する。侍ジャパンやプロの1軍から独立リーグまで、あらゆるレベルの選手を見てきた指揮官は、ドラフトにかかるための必須条件をこう考えている。

「1個でいいんです。特筆すべき武器がないと、ドラフトにはかからない。足が速い、肩が強い、スイングが速いといったように特徴めいたものが必要なんです。これといったものがあると、NPB側も評価しやすい。平均より上の突き抜けたものがないと」

橋上監督が指導してきた選手でそれが見えたのが、昨秋のドラフトで新潟アルビレックスBC(当時)からヤクルト入りした伊藤琉偉内野手だった。東農大を中退して、昨季途中に新潟入りしてきたが、その才能は突出していた。あっという間にリーグに順応。ドラフト5位指名を受けNPBへ羽ばたいていった。

「スピードや守備力、パッと見ただけでこれはモノが違うなという感じでした。ここの選手はNPBに行くために、持って生まれたものに磨きをかけていくのですが、プロで軸になるような選手は違うんです。最初から違うものを持っている。練習してうまくなるようじゃ、高い給料はもらえないのも事実なんです」

自分の武器に気付き、突き詰めた選手だけが秋のドラフトで名前を呼ばれる。橋上監督はじめ首脳陣は、そのための手助けは惜しまない。そしてファンを集め、チームを経済的に成り立たせるためには勝利という結果も無視できない。二兎を追うような状況には指揮官も「確かに、難しいかもしれませんね」と口にする。

「勝ち負けで互角に戦えれば一番いいですけど、元NPBの人間からすれば、そんなに簡単なものではないのはわかっています。ちょっと歯応えがあるなというものが一つでも二つでもあれば、そこからで良いと思うんです。ファンの皆さんにも面白いと思ってもらえるでしょうし」。自分の長所をスカウトにアピールできる選手が出てくれば、ファンを集めることにもつながるはず。そんな好循環を目指し、前例のない挑戦が始まった。

THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori

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