“求人サイト”を利用した「嫌がらせ」の責任を運営会社に問う訴訟が提起 被害の対象は「フェミニスト」弁護士ら

手前から岡村弁護士、渡辺弁護士、神原弁護士(4月26日都内/弁護士JP)

4月26日、求人求職サイトを利用した嫌がらせにより業務妨害を受けたとして、弁護士5名がサイトの運営会社に損害賠償を請求する民事訴訟を提起した。

大量の電話・メールによる業務妨害

訴訟の原告は岡村晴美弁護士、太田啓子弁護士、神原元弁護士、端野真弁護士、渡辺輝人弁護士。

被告は求人求職サイト「バイトル」を運営するディップ株式会社(以下「運営会社」)。

2024年1月、第三者が原告らの氏名や所属事務所の電話番号・メールアドレスなどを利用して、「バイトル」上に掲載された多数の会社の求人広告に応募した。応募を受けた各社は、面接日を設定するために原告らの所属事務所に電話やメールで連絡。原告らの事務所は大量の電話やメールの応対に追われて、深刻な業務妨害を受けた。

原告の一部は被害が発生した直後に運営会社に連絡して対応を求め、担当者と面談を行った。

以前にも他の人を対象にしてサイトを利用した嫌がらせが行われたことがあったが、運営会社は「ただのイタズラ」と認識して放置していたという。

サイトが嫌がらせでの利用が予見可能であったこと、また不正な応募を防ぐための対策は可能であったことから、運営会社には今回の嫌がらせに関する責任があるとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した。

請求額は各原告に100万円、計500万円。

「左翼」や「フェミニスト」の弁護士が嫌がらせの対象に

原告らは、共同親権法案について反対の立場から意見を発信しているか、「一般社団法人Colabo(コラボ)」の弁護団に参加した経験があるという共通点を持つ。また、原告らの多くはX(旧Twitter)で積極的に意見を発信している。

提訴後に行われた記者会見には3名の原告が参加。

「小魚さかなこ」のハンドルネームで共同親権問題について発信している岡村弁護士は「嫌がらせは無差別なわけではなく、ある一定の価値観に基づいて行われている」と語り、外部から「左翼」や「フェミニスト」と見られている弁護士が対象になっていることを指摘した。

今回の件では、岡村弁護士のもとには約60件の電話、太田弁護士のもとには約400件の電話がかけられた。また、神原弁護士のもとには200通以上のメール、渡辺弁護士のもとには2000通以上のメールが届いたという。

事務員が大量の電話やメールに対応する必要があったため、各弁護士の所属している事務所の業務には多大な支障が生じた。

「私は(弁護士になってから)17年目だからまだ耐えられたが、5年目などの新人弁護士だった場合には立ち直れない被害となっていた。ネットに自分の悪口を書かれるのはまだいいが、事務所に迷惑をかけられると気持ちがくじかれる」(岡村弁護士)

弁護士への嫌がらせは巧妙になっている

渡辺弁護士は、運営会社により嫌がらせが発生しないような措置は可能であると認めながらも、「対策を取ると応募件数が減ってしまう」と対策を実施しなかったことを批判。

「(運営会社が)営利を優先して、社会インフラとなっている自分たちのサイトが悪用されているという事実に向き合わない、という状況が非常に腹立たしい」(渡辺弁護士)

神原弁護士は、2017年の大量懲戒請求事件など弁護士を対象にした嫌がらせは以前から起きていると述べつつ、近年では手口が巧妙化していることを指摘。

「自分たちの世代はいいが、次の世代は(嫌がらせに対して)戦えなくなってしまうのではないか」(神原弁護士)

運営会社が原告らに行った説明によると、サイトを利用して嫌がらせを行った直接の加害者を特定することは困難であるという。

ただし、業務妨害罪は加害者を特定しなくても刑事告訴することが可能。原告の一部は告訴を検討している。

© 弁護士JP株式会社