天体写真に写りこんだ謎の「線」の正体 その名は「宇宙線」!愛好家に“ノイズ扱い”される悲しき存在の正体は【岡山】

「うちゅうせんが写り込んだ」…宇宙船ではない「宇宙線」とは?

天体写真を撮る愛好家をしばしば困らせるのが、「白い糸くず」のような写り込みです。(【画像①】)

「これ、『うちゅうせん』なんだって」というと、脳内で「宇宙船」と変換してしまう方もいらっしゃるかもしれません。

【画像①】は、山陽学園大学地域マネジメント学部の米田瑞生さんが4月18日に岡山市中区の山陽学園大学で撮影したものです。
(※動画は宇宙線が確認しやすいように編集で点滅させています)

この画像を拡大して見ると、さらに【画像②】のように「糸くず」のようなものの下に「白い点」も見られます。実はこれも「宇宙線」だといいます。点だけど線!

いったいこの「宇宙線」とは何なのでしょうか?撮影した米田さんに聞きました。どうやら天文の愛好家の間では「疎まれる存在」のようです。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「【画像②】の中央にある白い糸くずのような模様と、そのやや左下ににある白い点が『宇宙線』が原因と思われる『ノイズ』です」

「流星のように継続的する現象ではなく『粒子1つがカメラのセンサーを通過する瞬間』が写っているので1フレームにしか写りません。ほぼ光速(秒速30万キロメートル、1秒間に地球を7週半移動する速度)ですので、一瞬のことです」

――「宇宙線」が宇宙から光速でやってきて1フレームにしか写らないという「奇跡」のような瞬間ですが…。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「美しい天体写真を撮ろうとする愛好家や、わずかな光から天体の情報を得ようとする研究者にとって、『宇宙線』はノイズでしかなく、嬉しくないものです」

嬉しくない。。。何だか可哀そうにも思えてきました。

ノイズ扱いされる悲しき存在...そもそも「宇宙線」ってなんだ?

天文愛好家からは「ノイズ」扱いされてしまっている「宇宙線」。ではその正体はいったい何なのでしょうか?

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「『宇宙線』は、宇宙空間を飛んでいる放射線などの粒子の総称です。地球にも降りそそいでいますが、多くは大気にブロックされています」

「それでも、地上に到達するものもあります。ですから、高い山へ登ったり飛行機に乗ったりすると、放射線被曝量は増加します」

「『霧箱』(【画像③】宇宙線と霧箱)という装置(アルコールのガスを充満させている箱)に『宇宙線』が飛び込むと、その通った跡に雲を生成することがあります」

「似た原理で、地球大気にも『宇宙線』が原因で雲が生成されることがあると言われています。ですので、気候変動の原因に『宇宙線』が関与していると考える研究者もいます」

では、どうして「宇宙線」が写り込むの?

――人間の目には見えない「宇宙線」がなぜ写り込むのでしょうか。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「何らかの宇宙線が、カメラのCCDやCMOSセンサーに衝突すると、あたかもそのピクセルが光を受けたかのように反応してしまうのです」

「光学的に宇宙を観測している我々にとって、この宇宙線はやっかいなノイズです。宇宙の彼方から発せられて、何千年か何億年かかけて、たまたまカメラのセンサーにたどり着き、人間の都合でノイズ扱いされるのも可哀想ではあります」

天体写真では「ノイズ」扱いされる「宇宙線」。それを直に見ることは適いませんが、実は、私たちを通り抜けていっているのです。

「宇宙線」は知らぬ間に私たちの身体を通過している

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「ノーベル物理学賞を受賞した故・小柴昌俊さんは、『ニュートリノ』と呼ばれる素粒子からなる『宇宙線』の観測研究で業績をあげました。

『ニュートリノ』はなかなか物質と反応せず、(私たちの身体や地球さえ)透過してしまうので、巨大な水のタンク(小柴さんの指導・監督のもと岐阜県の神岡鉱山地下1000mにつくられた観測装置「カミオカンデ」)を設置し、少しでもニュートリノと水分子が衝突できる可能性を高くする工夫をして、その観測に成功しました。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「カミオカンデで観測しているのは、ニュートリノが水中を通過した時に発せられるチェレンコフ光という光です。チェレンコフ光の正体は、衝撃波です。(【画像④】参照)

水中では光の速度は遅くなりますが、ニュートリノはお構いなし。つまりほぼ光速で水中を突き進みます。そうすると、水上を航行する船が残す航跡同様に、チェレンコフ光が発生します。航跡から船の通過を確認するような手法です。

『宇宙線』といっても頻繁に観測されるものもあれば、存在を確認するのも困難なものまで様々です」

では天体写真に写り込む「宇宙線」は何なの?

――観測困難な「ニュートリノ」のような「宇宙線」ではなく、天体写真にしばしば写り込む「宇宙線」はどんなものなのでしょうか。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「ノイズとして映ってしまう『宇宙線』は、普段は邪魔者扱いしていますが、よくよく考えると、とても興味深い物理現象です」

「『宇宙線(主に陽子からなる)』が上層大気の原子と衝突して、『μ(ミュー)粒子』といった粒子が多数生成され、シャワーのように降り注ぎます。衝突前の『宇宙線』を『一次宇宙線』、衝突後に生成される多数の粒子を『二次宇宙線』と呼びます。この『二次宇宙線』が"ノイズ"の原因のようです」

「『一次宇宙線』と大気との衝突は、数km上空で発生します。このμ粒子の寿命は、50万分の1秒に過ぎません。光速(秒速30万km)で地上に向かったとしても、600mしか進めず、地上に辿り着くことはできません」

「しかし、現に我々は『二次宇宙線』を地上で観測しています。これには、物理法則のマジックが関わっています。アインシュタインの相対性理論です。光に近い速度で移動していると、時間の流れがゆっくりになるのです」

「μ粒子の速さを光の99.9%とすると、時間の流れは20倍以上遅くなります。よって、地上にμ粒子が辿り着くことができます」

――目には見えないけれど、シャワーのように降り注いでいるんですね。

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「【画像⑤】は、ハワイ島の標高4,200mのマウナケアにある、すばる望遠鏡を用いた天体観測中に写った『宇宙線』を、あえて強調して表示したものです。多くが同じ方向を向く線状に写っています」

「これらが同じ方向から飛来していることから、同じ『一次宇宙線』を起源とした『二次宇宙線』であることがわかります」

「二次粒子も多くは大気にブロックされますが、標高4,200mにあるすばる望遠鏡は、より多くの『宇宙線』に晒されているので、観測データに『宇宙線』が頻繁に写り込みます」

「宇宙線」が写り込む条件は??

そんな「宇宙線」をあえて撮りたい!と思った場合は、どうすれば良いのでしょうか?

(山陽学園大学 地域マネジメント学部 米田瑞生さん)
「『CCD』や『CMOS』といったセンサーを搭載している、デジタルカメラ・スマートフォンですと、写る可能性が高いです」

「昼間は太陽由来の『宇宙線』が多くなるはずですが、全体的に映像が暗い状態で得られた夜間の映像・画像の方が『宇宙線』が見つかりやすいです。スマートフォンで『宇宙線』を検出するためのアプリもあります」

この大型連休中、天体写真を撮影して【画像①】のようなノイズをみつけたら、それは「宇宙線」かもしれません。今年7月くらいまで「宇宙線」の存在を覚えておけば、自由研究にも持って来いのネタかも。。。

当記事は【画像】のリンク先では期限を設けず掲載しているので、ぜひクリップして保存しておきましょう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
米田瑞生さんプロフィール

2002年4月 - 2006年3月 東北大学, 理学部, 宇宙地球物理学科
2013年6月 - 2017年6月 ハワイ大学, 天文学研究所, 客員研究員
2015年4月 - 2017年9月 東北大学, 大学院理学研究科, 客員研究者 (博士(理学))
2023年4月 - 現在 山陽学園大学, 地域マネジメント学科

主に太陽系内外の惑星・衛星の大気・磁気圏について、研究。特に木星の衛星イオの火山活動がどのように変動しているか、その詳細を調査。イオの火山の研究には、東北大学にいたころに、マウイ島にあるハワイ大学の施設内に設置した望遠鏡を使っている。若い頃には高山病と闘いながら、チリ・アタカマ砂漠にある、東京大学アタカマ天文台での観測研究に従事。また、現職の山陽学園大学では情報関連の教育に従事する一方、特別な場所・施設でなくても、観測できる現象を調査すべく、「晴れの国」のメリットを活かして、低コストで流星を観測する方法を模索中。

© RSK山陽放送株式会社