一方的…廃止する方針の“市の介護施設”存続を求める署名続々 認知症の妻を介護する夫「日増しにいとおしくなった。この人に尽くしたい、人生の最後のコーナーで初めて夫らしい日々」賛同の声が相次ぎ、署名が急増

さいたま市福祉局の兼山和夫長寿応援部長(左)に署名を提出する「きんもくせい・ぎんもくせい」を守る有志の会の内藤正弘代表(左から2人目)とメンバー=25日午前、さいたま市役所

 埼玉県さいたま市が廃止方針を示している高齢者福祉複合施設「グリーンヒルうらわ」(緑区馬場)の介護老人保健施設「きんもくせい」の利用者らが25日、廃止撤回と施設の存続を求め、清水勇人市長宛ての要望書と計7167筆の署名を提出した。市役所を訪れた利用者らは「施設を続けてほしいという願いが署名に込められている」と訴えた。

 市は「きんもくせい」を2025年3月、ケアハウス(軽費老人ホーム)「ぎんもくせい」を30年3月に廃止する方針を示している。ぎんもくせいの利用者は今月12日、廃止撤回を求め、要望書と署名を市に提出している。

 今回提出したのは、「きんもくせい・ぎんもくせい」を守る有志の会の6人。利用者らは署名提出に当たり、「施設職員、利用者、家族に通告し、皆さんの意向も聞かず、一方的で住民不在の廃止案」と指摘した。

 代表を務める元教員内藤正弘さん(77)=緑区=は、認知症の妻(70)がきんもくせいのデイサービス、ショートステイを利用している。3月2日に市側の説明を聞いた内藤さんは同9日から、署名活動を開始し、直筆署名は1755筆に上る。4月12日から始めたオンライン署名は5500筆を超えた。

 内藤さんはオンライン署名に、心情をつづっている。「妻が認知症になって、介護に明け暮れている毎日ですが、日増しにいとおしい気持ちになってきました。この人に尽くしたい、人生の最後のコーナーで初めて夫婦の夫らしい日々を過ごしていると思っていたからです」

 内藤さんの思いが伝わったのか、賛同のコメントが書き込まれ、署名数が急増した。内藤さんは市福祉局幹部を前に、「施設を続けてほしいという願いが署名に込められている。市は願いをなんとか酌んでほしい」と訴えた。

 映像プロデューサーでルポライターの平林猛さん(83)=緑区=は6年前ごろ、転倒して、きんもくせいのデイサービスなどを利用している。訪問リハビリテーションを受けたことで、手を動かせるようになり、パソコンを使って本の執筆に取り組んでいるという。平林さんは「一番大切にしなくてはいけない福祉を切り落とす発想なのか。自分はさいたま市で生きてはいけないのかと思った。施設を続けていただきたい、それ以外はない」と話した。

 清水市長は25日の定例会見で、廃止方向で検討しているとした上で、「利用者一人一人に対し、丁寧な説明を行い、意向を伺いながら、最後まで責任を持って対応していきたい」と述べた。

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