「子持ち様」周辺でトラブルをまき散らす人々…“元”子持ち様、独身様、配慮しまくり男性上司

職場には「子持ち様」も「独身様」も介護をしている人もいる。できない上司は、それぞれに上手に仕事を振ることができずに職場に不満を溜め込んでいく。

人はそれぞれ立場や置かれた状況が違う。自分の立場からしかものを見ていないと、他者の立場がわからなくなる。だから「子持ち様」などという言葉が生まれるのではないだろうか。 誰かが妬みそねみをまき散らすと、たとえルールがきちんと決まっていても仕事はうまく回らないかもしれない。

「子持ち様」を悩ます社内の人間関係

「うちはもともとフレックスタイム制。コアタイムは午前10時から午後3時なので、時短の人はコアタイムだけいることが多いですね。時短だと給料が減るので、最近はコアタイムだけ会社にいてあとは在宅で仕事をしている人も増えています。私自身もコアタイム以外はわりと自由に、会社にいたり家にいたりしています」 ミヤさん(39歳)には、5歳と3歳の子がいる。夫の会社はフレックス制を取り入れていないので、相変わらず9時から5時、しかもかなり残業も多いという。結局、家事育児はほとんどミヤさんが担っていることになる。 「そういう状況だからフレックス制はありがたい。ただ、それでも急な仕事が入ったり、外部の人との打ち合わせや商談が夕方までかかったりということは多々あります。私のような子持ちは、仕事を他者とシェアしながら進めるのがうちの基本。 一応、ルールはしっかりしているんですが、それでもうまくいかなくなるのは、だいたい人間関係が絡んでいますね」 ミヤさんは苦笑しながらそう言う。彼女自身も「おそらく陰で、子持ち様なんて言われているとは思うけど」と前置きしながらも、問題なのは「元子持ち様」だという。

トラブルをまき散らす「元子持ち様」

「ひとりちょっとうっとうしい人がいるんですよ。自分の子どもたちはすでに大きいから、こっちのことには口を挟まなくていいのに、いちいち『私の頃はもっと大変だったのよ』と言ってくる。『あなたたちはフレックスだし、今は恵まれてるわよ』って。 だからもっと仕事しろということらしいんですが、仕事をどうシェアするかといったときに彼女が入ってくると面倒なことになってしまうんです。『このくらいなら子どもがいてもできるでしょ。私はやったわよ』と過去を持ち出すから」 過去を引き合いに出しても意味がないのにとミヤさんは苦笑する。

想像力を働かせてほしい「独身様」

さらにそこに、「独身様」も絡んでくる。独身40代の同僚ユイコさんは、本当は子どもをもつ同僚を妬んでいるらしい。 「20代の同僚が言うには、ユイコが『私だって婚約はしたの。だけどいざ結婚となったときに私から振ってしまった』と愚痴っていたとか。私は同期だから知っていますが、ユイコの結婚がダメになったのは彼女が浮気したからです。でもそれは彼女にとっては隠したい事実だし、若い後輩にはカッコつけてそう言ってるだけ。 後輩が言うには『子どもがいるからって仕事を疎かにするのはどうかと思うわ』とも言っているようです。 だけど私たち子持ちの前では、『あなたたちは少子化を食い止めている存在だもの。少しは優遇されないとね』と言う。別に私たちは優遇されたいわけじゃない。なのに子を持つ母は優遇されてしかるべきと私たちが思っているかのように言いふらすんです」

結果、配慮しすぎる「男性上司」が溝を深める

そしてわけのわかっていない男性上司もまた、気を遣いすぎて無意識のうちに“子持ち様”を他の社員と分断させているのだという。 「仕事のシェアはうまくいっているのに、そこに上司が気を遣いすぎて口を出す。『もうちょっと彼女の仕事を減らしてやって』とか。別に減らされたいわけではないし、家でも仕事はできるのでと当事者が言っているのに……。シェアしている相手方も『そこまで私がやるんですか』ということになって、こっちが逆恨みされるわけです」 若手の独身社員の中には、「自分の仕事以上に、人の尻拭いばかり」と不満が渦巻くこともある。ルールが決まっていても運用するのは人間。状況を広い視野で見極めた上で、それぞれの立場に合った仕事の割り振りが重要となる。 「それがうまくできない上司が多いですね。変に私情を入れすぎたり、逆に機械的すぎたり。コロナ禍もあって、コミュニケーションがうまくとれていないのもあるかもしれないけど」 上司も他の社員も、みんなもっと想像力を働かせればいいのにとミヤさんは言う。今後は直属の上司とも話し合い、週に1度は、仕事を割り振りする会議を開くことになった。 「うちは女性社員が多いし、子育てだけじゃなくて介護もからんでくるから、仕事の割り振りは本当に大事。コアタイムだけしか仕事をしない時短の人もいますし、私のように在宅を組み合わせてるタイプも多い。 シェアすると責任感が薄くなるという実態もあるみたいですし、きちんと仕事を共有できるようにするためにはどうしたらいいかという問題もある。最後はやはりコミュニケーションを密にとることが重要だと痛感しています」 誰もが自分のこと以外、他人の事情までは想像できない。だからこそ個人の事情を共有する必要性も出てくる。その上で、想像力を働かせていかないと、「仕事のシェアが、ただのシステムになって、結局、仕事に意義を見いだせなくなる人も出てくるかもしれない」とミヤさんは憂えている。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。 (文:亀山 早苗(フリーライター))

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