『9ボーダー』“コウタロウ”松下洸平に危険人物の可能性? 緒方恵美の“俳優として”の演技も

人生はたいていうまくいかない。でも「大丈夫じゃない」ながらに決断しなければ前には進めない。毎日を心安らかに、できるだけ快適に生きていくためには、どうすればいいのだろう。金曜ドラマ『9ボーダー』(TBS系)では、19歳、29歳、39歳と、いわゆる「大台」を迎える前の「ラストイヤー=“9ボーダー”」真っ只中の3姉妹が、「LOVE」「LIFE」「LIMIT」の「3L」をテーマに、モヤモヤや焦りを抱え幸せになりたいともがきながら人生を前向きに進んでいく。

第1話から本作の名言として話題になったコウタロウ(松下洸平)の「俺のこと、好きになっていいよ」発言以来、彼のことが気になる七苗(川口春奈)。前回「彼氏がいる」と六月(木南晴夏)と八海(畑芽育)に嘘をつき、やや気まずい展開になっていたのも束の間、自然と元に戻れる仲の良い3姉妹が微笑ましい。それでも、六月曰く「今あるものとないものがわかってきて迷う時期」こと29歳の七苗の悩みはまだまだ尽きないのだった。年齢によって直面する悩みや葛藤が異なる3姉妹だが、お互いに支え合い、前を向いて生きる姿はこの先も視聴者の毎週の励みになりそうだ。

そんな中、記憶を失っているコウタロウに出会う3姉妹。コウタロウのために「あなたが誰なのか、見つけよう私たちで」と、彼の身元を明らかにするべく七苗が動き出す。まさに「人の好きは止められない」という言葉さながらに猪突猛進な七苗だが、六月と八海は、身元不明のコウタロウに対してやや怪しさを拭えないのだった。

一方、八海は、立花(兵頭功海)からプロポーズの返事を急かされ悩んでいたが、訪れた占いの館で「貯金と結婚はできるうちにしとけ」というアドバイスを受ける。第2話では、この“占い師”にも放送前から注目が集まっていた。占い師役を、『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ役や『幽☆遊☆白書』の蔵馬役、『呪術廻戦』の乙骨憂太役などを務めるレジェンド声優の緒方恵美が演じていたからだ。本作で緒方は、声優になって初となる“俳優として”のドラマ出演を果たした。今回の緒方の出演は、彼女の声だけではないフィジカル全体を使った演技が見られるという意味で、アニメファンにとっても嬉しいサプライズだろう。

七苗が仕事で訪れた福岡から帰ると、空港にはコウタロウの姿が。タンシチューを“お礼の押し売り”として届けに来たコウタロウに、思わず観ているこちらもほっこりしてしまう。ゆっくりと心の距離が縮まる2人だったが、コウタロウの身元はいまだにわからないまま。しかしある日、商店街の先の公園で、誰かと言い争っている様子の彼を見かけたという人物が現れる。コウタロウの正体に関する情報はまだ少ないものの、どうやら彼が“危険な香りのする人物”である可能性も否めなくなってきた。

さらに第2話では、立花が結婚の挨拶に大庭家を訪れ、そこに陽太(木戸大聖)が立ち会うことに。八海の「好きって何?」という問いに、六月は相変わらず切れ味鋭く「その人と一緒にいると笑える、笑顔になれる」と答える。しかし、六月自身も夫・邦夫(山中聡)から離婚を切り出されるも受け入れられない状況に陥っているからこそ、人生は本当にその年齢やフェーズごとの悩みが尽きないことを思い知らされる。六月を心配する松嶋(井之脇海)との距離の縮まり方も、姉御肌な六月らしい。

「結婚する人しない人、子どもを持つ人持たない人、みんな幸せになれ」

松下演じるコウタロウが働くバルの店主・辻本あつ子(YOU)の言葉は、多くの視聴者にとって、このドラマを貫くメッセージのように聞こえたのではないか。さまざまな重圧の中でまるで自分だけが損をしているかのような状況の中でも、仕事仲間に「胸はって、お母さんして」と言える七苗の心の広さが刺さる。結婚や出産に関する周りの視線や、仕事での責任の重さ。みな、何かのために何かを我慢しているのは同じ。誰もが完璧ではなく、それぞれの事情を抱えながら生きているのだ。そんな中で、心を許せる誰かがいることの大切さを、『9ボーダー』は教えてくれる。

恋人でも家族でも友人でも、心を許せる存在がいるだけで、世界の見え方はほんの少し変わるのかもしれない。辛い時も、苦しい時も、一人ではないと感じられる安心感は、人生を前向きに歩むための原動力になるのだろう。七苗の中に芽生えた小さな恋の芽が、彼女自身の心を少しでも救うものであってほしいと切に願う。

(文=すなくじら)

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