【助成金の解説】両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)/岡 佳伸

2024年1月新設

両立支援等助成金は、仕事と育児を両立しやすい職場環境整備に取り組む中小事業主を支援する制度です。2024年1月から新設された育休中等業務代替支援コースは、育児休業や育児のための短時間勤務制度を利用する労働者が生じた際の業務を代替するための体制整備として、以下の支援が新設されました。

1.育休休業取得者や育休のための短時間勤務制度利用者への手当支給:育休休業期間中に業務を代替する労働者に対して手当を支給します。
2.育休休業取得者の代替要員の新規雇用:育休中の業務を代替するために新たな労働者を雇用する場合、助成金を支給します。

非常に複雑な仕組みの助成金となります。支給申請には休業開始時までに最新の育児介護休業法に基づいた就業規則や育児介護休業規定等を整備する必要があります。支給申請に不安を感じる場合は必ず事前に労働局の雇用環境均等部(室)に相談しましょう。

支給額

※1 対象育児休業取得者/短時間勤務制度利用者が有期雇用労働者の場合に、[1]~[3]の助成金に支給額を加算します。業務代替期間が1カ月以上の場合のみ対象となります。加算のみの受給はできません。
※2 自社の育児休業の取得状況等を指定のWebサイト上で公表した場合に、[1]~[3]のいずれかの助成金に、1回に限り加算して支給します。加算のみの受給はできません。

支給申請までの流れ

[1]手当支給等(育児休業)

[2]手当支給等(短時間勤務)

受給のポイント

① 新規雇用により代替として入社する社員は雇い続けても問題ありません。しかし、同じ職務で無なければなりません(店長なら店長)。手当等も原則同額である必要があります。代替要員の対象者をキャリアアップ助成金等他ほかの助成金の対象者にすることは可能です。
② 1か月以上の育児休業の場合は原職等復帰が前提となります。例えば復職職務が店長の場合は同じ店長であり、諸手当等も同じように支給されなければなりません。職制上の地位が同じである必要があります(育児休業中にその部署が無くなったと等の場合原職相当職の復帰でも認められることがあります)。また、同じ店舗(事業所)に復帰させなければいけません。例外として、育児のためには本人が望んで合理性がある場合(例えば通勤距離を短く変更出来たり、公共交通機関の都合上通勤時間が短くなった場合等)については、違う事業所での復帰や育休復帰支援プラン等による面談の場合により本人が望んだ結果、原職以外で復帰した場合も対象になる場合があります。
③ プラチナくるみん認定を受けていない限り、一般事業主行動計画の策定や一般事業主行動計画策定届の労働局への届出が必要です。一般事業主行動計画の周知には両立支援のひろばが活用できます。
https://ryouritsu.mhlw.go.jp/
④ 復帰後、在宅勤務をしている場合は、業務日報等により勤務実態(勤務日、始業終業時刻、業務内容)が確認できる場合に限り支給対象になります。
⑤ 職場復帰時は原則原職復帰が前提となります。時短勤務等を選択した場合は育児介護休業法の規定に基づく措置として就業規則、育児介護休業規定等による場合であることが必要になります
⑥ 育児休業前に無期雇用だった労働者が有期雇用で復職している場合は支給対象外です。本人の希望による場合でも対象外になります。
⑦ 現職復帰の日から支給申請までの間に雇用形態や給与形態の不合理な変更を行っている場合は対象外になります。
⑧ 育児休業が1か月以上の場合は支給申請日まで3か月以上、雇用保険被保険者として勤務して支給申請日に在籍している必要があります。また、当該3か月間は5割以上就業している必要があります。ただし、法で定められた休業(年次有給休暇、産前産後。育児休業等)等は就業したものと見なされます。
⑨ 手当支給等の対象になるには、業務の見直し・効率化等の取組をしている必要があります。
⑩ 新規雇用の場合は対象労働者(育児休業取得者)の代替要員を新規雇用又は派遣労働者として受け入れなければなりません。育児休業者の業務の代替え(一部の業務でも可)を行っていること、対象労働者が、資格が必要な業務に従事している場合は、代替要員も資格を有していること、対象労働者に手当が支給されている場合は代替要員にも手当が支給されていること、代替要員の所定労働時間が対象労働者の2分の1以上である必要があります。
⑪ 新規雇用の場合は、同僚の労働者が育児休業取得務を代替し、当該同僚の代替要員を確保した場合(いわゆる「玉突き」)も支給対象になります。しかし、「玉突きの玉突き」(対象労働者の代替要員を同僚が行い、その代替要員を他の同僚が行い、その他の同僚の代替要員を確保した場合)は対象外になります。
⑫ 育休中等業務代替支援コースは初回の対象者が出てから5年間のみ助成対象となります。2024年1月に新設された育休中等業務代替支援コースの前の助成金の各種コース(過去の助成金)の受給は含まれません。

原職復帰および育児短時間勤務にかかる規則例

【復職後の勤務】
第〇条 育児・介護休業期間が終了したときは、原則として、終了した日の翌日から休業直前の部署、職務及び所定労働時間で復帰するものとします。
2. 前項にかかわらず、本人の希望による場合および組織の変更等やむを得ない事情がある場合は、復職の時期を遅らせ、または復帰後の部署および職務の変更をおこなうことがあります。ただし、会社都合によって復職の時期を遅らせる場合には、会社は、その期間について休業前の平均賃金の60%の休業手当を支給します。
3. 復職の時期が到来したにもかかわらず、正当な理由なく復職しないときは、自己都合退職したものとみなします。

【育児短時間勤務】
第〇条 3歳に満たない子を養育する従業員は、申出ることにより、就業規則に定める所定労働時間又は所定労働日について、以下のように変更することができます。
所定労働時間を午前10時から午後5時まで(うち休憩時間は、午前12時から午後1時までの1時間とする。)の原則6時間とします。ただし、本人の希望により5時間~7時間の間で短時間勤務時の労働時間を指定することが出来ます。休息時間も45分から1時間の間で変更可能です。所定労働日についても本人の希望により月11日から月22日の範囲で変更可能とします。所定労働時間及び所定労働日両方についても変更可能です。
2. 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当する従業員からの育児短時間勤務の申出は拒むことができます。
(1)日々雇用される者
(2)1日の所定労働時間が6時間以下である者
3. 申出をしようとする者は、1回につき、1か月以上1年以内の期間について、短縮を開始しようとする日および短縮を終了しようとする日を明らかにして、原則として、短縮開始予定日の1か月前までに、書面により会社に申出なければなりません。申出がなされたときは、会社は速やかに申出者に対し、通知書を交付します。

筆者:岡 佳伸(特定社会保険労務士 社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表)

大手人材派遣会社などで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。
日経新聞、女性セブン等に取材記事掲載及びNHKあさイチ出演(2020年12月21日)、キャリアコンサルタント

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