【社説】森林環境税 目的と使い道を周知せよ

山々の新緑が鮮やかな季節になった。大型連休中に登山やハイキングを計画している人も多いだろう。

森を守る財源として、本年度から森林環境税の徴収が始まる。個人住民税に年額千円が上乗せされる。

この新税をどれだけの人が知っているだろうか。国や自治体は導入の目的と使途を周知してもらいたい。

森林環境税は国税として集め、都道府県と市町村に配分する。約600億円の税収が見込まれ、自治体への配分額は私有人工林の面積、林業就業者、人口を基に決める。

具体的な使い道を決めるのは自治体だ。間伐、林道の整備、林業人材の育成、木製品の活用、森林に関する啓発事業が想定される。

森にはたくさんの機能がある。地球温暖化の防止、水源のかん養、動植物などの生態系保護のほか、防災面でも重要だ。手入れをせずに荒れた森は、大量の雨が降ると土砂崩れを起こしやすい。

近年は木材の価値が見直され、子どもが木製品に触れて学ぶ「木育」や高層ビルの建材にも使われる。地域特有の景観や文化も育む。

森を適切に整備することの大切さと、森林環境税の趣旨は理解されるだろう。問題は自治体が目的に沿って活用できるかどうかだ。

国は2019年度から別の財源を使い、自治体に森林保全の事業費を配分してきた。だが使い道が決まらず、基金に積み立てた自治体が多い。

林業を専門に担う職員がいない市町村もある。都道府県との協力が必要だ。使途の検証は欠かせない。

自治体への配分額は人口比が反映されるため、人工林が比較的少ない大都市圏に手厚くなりがちだ。22年度は大分県や鹿児島県よりも東京都、埼玉県の方が多かった。

全国町村会などの要望を受け、国は本年度から人工林面積の比率を5ポイント増やして55%とした。その分、人口比を下げたのは妥当だ。

地域によっては「二つの森林環境税」に対する住民理解を得る必要がある。

森林環境税は03年に高知県が初めて導入し、多くの府県に広がった。九州7県にも同趣旨の県民税があり、個人から500円を徴収している。

森を守る国税と県税が併存するのは分かりにくい。具体的な使途と効果に住民が納得できないと「二重課税」の批判は免れない。

森林環境税を自治体単位で活用することの妥当性も議論が必要ではないか。広く連続する森の管理を自治体の境界で区切るのは無理がある。自治体の枠を超えて税を生かす方策を考えたい。

福岡市民の水道水源をたどると大分県の森に行き着く。阿蘇山や屋久島の森林保全を望むのは地元の住民だけではない。有明海の栄養分は森からもたらされる。

森林環境税を九州一体で活用できないだろうか。

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