株主名簿に載らない“実質株主”に企業は戦々恐々…金融庁が仕組みづくり検討へ(中西文行)

外国人の持ち株比率も上昇し…(C)日刊ゲンダイ

株主総会が集中する6月を控え、株主が行使する議決権についての議論が注目されている。「株主名簿には載らないものの議決権を持つ実質株主を企業が把握しやすくする仕組みについて、金融庁で検討が進められている」(大手証券幹部)というのだ。

背景には、企業の株式持ち合いの解消が進む一方、外国人の持ち株比率が上昇していることがある。とくに外資を中心とするアクティビスト(物言う株主)の存在が大きく影響している。「日本株の外国人持ち株比率は3割に達しており、日本で活動するアクティビストは過去5年間で3倍の約70ファンドにまで拡大している」(同)ためだ。アクティビストはステルス兵器のように、企業が気付かないうちに企業の株式を買い増し、株主総会の議決権行使で経営に揺さぶりをかけてくるだけに、企業にとっては悩ましい問題となっている。

企業の発行済み株式総数の5%を超える株式を保有した場合は、大量保有報告書を財務局に提出し、保有比率を開示しなければならないが、アクティビストを警戒する企業側としては5%未満でも株主名を知りたいところ。

さらに、企業を悩ませるのは、「信託口」を利用して株式を保有しているケースだ。「信託口(勘定)は他人勘定であり、名義が信託銀行名になるため、本当の株主の名前が表に出ない」(市場関係者)ためだ。また、機関投資家は一般的に株式の保管・管理や配当金の代理受領などを「カストディアン」と呼ばれる資産管理銀行に委託しているが、カストディアンは自らの判断で議決権を行使することは少なく、実質株主が指図するケースが多い。このため、企業としては「実質株主が誰なのか」を把握したいとのニーズは高い。

■実質株主の開示促進なるか

こうした企業ニーズを踏まえ、大手信託銀行ではグループ会社などと連携し、国内外の機関投資家や保有比率を正確に把握する「判明調査」を行っており、ここ数年、対応するコンサルティング部門の陣容を増やしている。「早期に実質株主が判明すれば、株主総会前に水面下で接触でき、議決権行使への対応策が練られる」(東証プライム上場企業)ためだ。ただ、調査1回あたり数百万円の費用がかかり、2カ月程度の期間を要するのが難点。それだけに金融庁の仕組みづくりに期待が高まる。

株主総会を控え、投資家から株主提案を受ける企業は年々増加している。かつ、提案の中身も資本効率の改善や企業統治改革、株主還元、気候変動対応、役員の選任など多様化している。企業と投資家の「対話」を促す、実質株主の開示促進が望まれる。

© 株式会社日刊現代