ポスト進撃の巨人? 命を管理されて生きる“小さな人間”の物語 ヤンジャン新連載『ハヴィラ戦記』の衝撃

4月11日発売の『週刊ヤングジャンプ』19号(集英社)から始まった新連載『ハヴィラ戦記』が、いま大きな注目を集めている。1ページ目から好奇心を掻き立てられるユニークな設定と、ほのぼのとした絵柄で描き出される衝撃的なストーリー……。次世代の名作マンガが誕生しそうな予感だ。

【大 反 響 新 連 載‼️】

|◤ 人間に保護管理される小さな人型の生き物ハヴィラ。 外の自由な世界を夢見るが...。 ◢|

第1話からたくさんの応援コメントをありがとうございます🙏

同作は一言でいうと、人間社会で希少種として保護される“小さな人間”をめぐる物語。奄美群島で発見されたその種族は絶滅の危機に瀕していたそうだが、とある企業が保護区を設立したという。

彼らは普通の人間のような見た目だが、手のひらに乗る程度のサイズなので、カラスやハブなどの外敵から守るために厳重な管理体制に置かれている。さらに種の絶滅を避けるために「つがい制度」なるものが存在し、血縁や相性を考慮して何世代も先まで勝手に交配相手が決められている。つまりは人権が一切存在しない扱いだ。

主人公の忍野は、マイという女性とつがいになっており、夫婦のような生活を送っているのだが、まだ“一線”を超えていない。マイは忍野を嫌ってはいないものの、恋愛感情は一切ないようで、そうした行為に拒絶反応を示すのだった。そして2人のあいだに亀裂が生じる一方、外敵の襲来によって突如日常が崩壊していく。

まだ物語は始まったばかりだが、作中では外の世界で自由に生きていた小さな人間の歴史が仄めかされるなど、壮大な設定の広がりを感じさせる。それだけでも十分秀逸な作品なのだが、本当に面白いのは読者の視点が小さな人間に同化させられることだ。

よくあるストーリーなら、主人公が自由を奪われた状態に怒りや絶望を覚えており、外の世界に出ようとする……という展開になりそうだが、あくまで忍野にとって重要なのは自分とマイの関係性。大きな人間の思惑など興味はなくて、マイと幸せな関係を築きたいだけだ。そこが生々しくリアリティがある部分で、突飛な世界観にもかかわらず読者が共感できる理由となっている。

どこまでも“関係性”にこだわる作家性

ネタバレになるため詳細は伏せておくが、『ハヴィラ戦記』の序盤の展開はまさに激動。物語の立ち上がりとしては、『進撃の巨人』に近いと言ってもいいかもしれない。しかし忍野とマイの関係性に焦点が当たることで、作品にオリジナリティが宿っており、先を予想できない展開となっている。

おそらくここには、作者・みのすけの作家性が大きく関わっている。過去に発表した読み切りでも、キャラクター同士の関係性や生々しい心情描写に強いこだわりを見せていたからだ。

たとえば週刊ヤングジャンプ増刊『ヤングジャンプ ダイイチワ』に掲載された『片隅のエデン』は、獣の姿をした人間、“獣人”をめぐる物語。原獣民の母と自然のなかで暮らしていた犬の少女が、英国から開拓に来た獣人に連れ去られ、過酷な生活を強いられる……という設定だった。

同じ獣人でも、自然のなかで暮らす原獣民と文明が進んだ街で暮らす者が分かれていて、あちこちで植民地支配による不幸が起きているという世界観。現実の人類史と重なるように、獣人たちの世界が作り上げられている。しかし同作においても、物語の軸となるのは世界規模の大きな出来事ではなく、繊細に描き出される主人公の心情だ。そして主人公と原獣民の男性との関係性によって、ダイナミックにストーリーが動いていく。

ちなみに同作は『ヤングジャンプ ダイイチワ』の読者アンケートにて、「ストーリーの面白さ」部門と「物語の世界観の魅力」部門の2つで第1位を取っていた。

そのほか「週刊ヤングジャンプ月例新人漫画賞」シンマン賞94回佳作+月間ベストを獲得した『監獄美術館の学芸員』も、高く評価されている読み切り。意志を持った絵画と学芸員の交流を描いた物語で、やはりユニークな世界観を作る力と、丁寧に関係性を描写する力が両立している。

名作読み切りを生み出してきた作者が、初の連載作品『ハヴィラ戦記』でどれだけの境地を見せ付けてくれるのか、期待するしかない。

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