広島県安芸太田町穴の旧JR可部線安野駅の跡地で展示、保存されている車両「キハ58」が、岐路に立たされている。管理する住民団体の要望を受けて町が撤去・解体も視野に検討を進める。2003年11月末に廃止となった可部線のラストランを飾った思い出の車両だが、20年以上たって傷みが激しく、維持が難しくなっている。
車両は可部線廃線後、町がJR西日本から譲り受け、安野駅跡地の安野花の駅公園でホームと一緒に展示、保存している。05年ごろから地元住民でつくる公園運営委員会が管理を続けてきた。
保存とはいえ雨ざらしの状態。町が過去に2回程度、車体の塗装をしたものの、さびや雨漏りがひどくなっていた。運営委は、ビニールシートをかぶせたり、雨水を受ける容器を置いたりして車内が水浸しになるのを防いでいたが、「撤去、解体が最善の方法」と判断。昨年12月、町と町議会に要望書を提出した。
運営委の構成は当初の約40世帯から31世帯に減り、地区の高齢化は6割を超える。委員長の山陰尚真さん(68)は「60代でも若い方。地域で管理するには限界がある」と肩を落とす。
町は、運営委の要望を受けて「解体も含めて検討している」と説明。町議会は6月の定例会で対応を協議する構えだ。23年度の見積もりでは、さびの除去や雨漏りの修繕に1千万円以上かかるとみられている。
廃線でなくなった21駅で唯一、車両とホームが残り、住民や鉄道ファンに親しまれてきたスポット。花の駅と呼ばれた一帯はこの時期、行楽客が多く、交流サイト(SNS)では車両の行方を案じる書き込みも目立つ。
広島市東区から訪れた主婦川本康子さん(78)は「車両と桜がセットになってこそ安野ならではの風景。なくなったら寂しい」と話していた。