“字が書けない”ミシン少女…学校に行けずも「誰かが喜んでくれのが、本当にうれしくてうれしくて」得意な作品で感謝を伝える新作…向き合い続ける書字障害

ミシンの全国コンクールで何度も賞を獲り「ぬいぬい屋SOU」のブランド名で活躍する、金沢市の中学生の少女がいます。この春手がけた新しい作品に込めたのは支えてくれている学校への感謝でした。

紫の生地に動物柄のポケットがついた愛らしいエプロンに…同じ布の組み合わせで作った子ども用の三角巾。

これらを手がけたのは、金沢市の佐々木奏さん(14)は、これまでミシンの全国コンクールで何度も賞を獲るほどの実力の持ち主です。エプロンと三角巾について、奏さんは「柄で統一しているんですけど、お子さんが動物柄が好きと聞いたので、この柄を選びました」

「ぬいぬい屋SOU」のブランド名で活動する奏さんの作品は「あったらいいな」を叶えるアイデアが詰め込まれています。今回はお母さんの友達への贈り物として、保育園に入園する子どもが好むデザインに仕上げていました。お母さんのお友達は、子どもに試着させながら「あー…似合う!」と嬉しそう。

お母さんの友達「すごい有難かったです。私…どうしようと思っていたので」
奏さん「入学の準備物とかが作れない大変さはママから聞いているので」

6歳からミシンを扱うも…苦労する学校生活

奏さんが初めてミシンを触ったのは小学校入学前。お母さんのお手伝いで縫った雑巾づくりでした。

ミシンはプロ並みの腕前を持つ一方、奏さんは、文字が上手く書けません。いわゆる、学習障害です。小学生の時は、ノートの書き取りに苦労し、中学校では、できない自分と他人とを比べてしまい学校に通えない日が続いています。

奏さんの母「(学校は)みんな同じ年齢の子たちでその同じ年齢の子たちができて当然とされるものを基本とされているから、余計比べちゃうんじゃないかと思いますね」

これまで学校の授業にはリモートで参加している奏さん。
ミシンでの作品づくりは、彼女のアイデンティティです。前回は優秀賞だったミシンの全国コンクールには自作のカバンを学校を通じて出品していました。

先月、久しぶりに奏さんを訪ねると、リビングにあった作業場が無くなっていました。元日に発生した能登半島地震で部屋の物が散乱したということです。

奏さんが持つ“もう一つ”の特性とは

奏さんは「布を上に上に積み重ねていたので、地震で上の方からどんどん落ちて行って…」と説明します。

モノが見えていないと、探しだすことができず、頻繁にモノをなくす奏さん。
地震からの片づけを機会に「物が見えるようにしよう」と奏さんの特性に合わせた「モノを見つけやすい」新たな作業場が完成していました。

奏さんのお母さんは「いつでも見えて、いつでも取り出せるように、ふたのない状態ですぐに探せるということで整えた。同じ型紙がふたつあったりとか、そういう事故がこれ以降増えないために」と説明します。

奏さん「ふたつとかいうどころじゃ無かったよね。探したら3つとか4つ出てくるので」

この春、奏さんが手がけた新作は、中学校の校長先生のために作った感謝の品でした。

奏さん「これは…ゴルフボール入れですね。校長先生、ゴルフが好きだと言っていたので。校長先生は…リモートをOKにしてくれたというのが(作ったきっかけ)。やっぱり…そこは校長先生がOKを出さないとどうにもならないので」

これまで作品を褒めてくれたり学校に通えなくてもリモートでの授業参加を認めてくれたりした校長先生への感謝としてゴルフボール入れとポーチを作り上げました。しかし…

待ち合わせ当日に発覚した“作り忘れ”の品

奏さん「…え?いける?」
奏さんのお母さん「いけるんじゃない?」
奏さん「いける?」
奏さんのお母さん「あれが入ればいいんでしょ?」

感謝の品を入れる袋を作り忘れていた奏さん。校長先生との待ち合わせの時間まであと1時間。慌ててお母さんと作り始めます。

時間がない中、手慣れた手つきでミシンを操り次第に裏地がついた袋が仕上がりました。

奏さんのお母さん「いいでない?なんか…いいかんじじゃない?ちょっとしたのを持ち歩けそう」

ほとんど採寸をしないまま30分ほどで完成した専用の袋。最後に「ぬいぬい屋SOU」のタグをつけて完成です。

奏さん「入る?…入る!よかった!」
奏さんのお母さん「おおー」
奏さん「よかったよかった」

久しぶりの登校となったこの日。担任の先生に課題を提出していると、校長先生がコンクールの賞状を渡しにやってきました。

コンクールの結果は?感謝の品の反応は?

校長先生「この度はおめでとうございます。去年に引き続き、たいへん、なかなかすごい賞をいただいたということで…」

得意のカバンづくりで臨んだ今回のコンテストの結果は、去年に続いての優秀賞。奏さんは褒められ満足げな表情を浮かべます。そして「ほんとにリモートを許可してくださったり…」と自作の品を差し出します。

校長先生「ほんとだ。なんかゴルフボールを入れて…ちゃんとゴルフバッグにかけれるようにとか、腰にかけれるようにとか…勉強してるね!」

定年退職を迎える校長先生に感謝の気持ちを伝えられた奏さん。学校には通えていなくとも、学校と奏さんの間には作品を通じた繋がりがありました。

奏さん「自分が作ったもので誰かが喜んでくれるというのが、本当にうれしくてうれしくて…よかったです。ちょっとずつ受験に備えて勉強もやっていかないとなって…」

この春から中学3年生に進級した奏さん。自分の苦手と向き合いながら、少しずつ、将来に向けて歩みを進めます。

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