熊本市北区植木町の石本今朝之さん(82)は、毎朝の散歩の途中に、通りかかる貨物列車に手作りの垂れ幕でエールを送るのが20年以上の日課となっている。「がんばれ」「ありがとう」などメッセージは6種類。運転士も毎回通過するのを楽しみにしており、車窓越しの交流が続いている。
16日朝、JR植木駅から1キロほど離れた鹿児島線の沿線に、石本さんの姿があった。左手には長さ1・5メートル、幅50センチの垂れ幕。「祈る ご安全」の文字がくっきりと浮かんでいた。
午前9時7分、こちらに向かってくる機関車を数百メートル先に見つけると、石本さんはかぶっていた朱色の帽子を手に取り、左右に大きく振った。大きな音を立てながら近づいてくる北九州発鹿児島行のJR貨物21両編成。石本さんの前を通過する直前、短く汽笛が鳴った。
運転士の顔は見えないが、「汽笛の鳴らし方に特徴がある」と石本さん。初めは列車を眺めているだけだったが、今では「びゃー」と鳴る汽笛と、機関車の窓からチラリと見える白い手袋を楽しみにしている。
JR貨物鳥栖総合鉄道部によると、通りかかる貨物列車はワンマン運行で、主に北九州市~八代市を24人の運転士が日替わりで乗務している。その一人の碇拓也主任運転士(41)は、正月に見た「おめでとう」の垂れ幕が印象に残っているという。「新年早々の仕事でも、励まされる気持ちになった」と思い出す。
毎回、最後尾の車両が通り過ぎるまで帽子を振り続けるという石本さん。「運転士さん1人で、あんなに多くの貨物を引っ張っている。毎朝その姿に元気をもらっているんですよ」。来た時よりも軽い足取りで帰路についた。(石井颯悟)