【漫画】楽器を始めた元野球少年が、昔のチームメイトに再会して……青春漫画『共鳴するピッチ』が美しい

熱い思いを胸に秘め、前を向きながら生きる人物の姿は多くの人の心を奮い立たせる。Xに3月下旬に投稿された読切漫画『共鳴するピッチ』は、高校に進学して吹奏楽部に入部した元野球少年の歩みが切なくも熱く描かれた良作だ。

打ち込んできた野球を離れ、高校に入学して吹奏楽部に入った響介。楽器はトランペットを選んだが、初心者のため来る日も来る日もマウスピースで音を出すための練習ばかり。そんな中、吹奏楽部として高校野球の応援のために球場に訪れると、かつてのチームメイト・若葉と遭遇する――。

本作を手掛けたのは、2年前までは会社員として働きながら趣味で漫画を描いていたが、商業連載が決まったことをキッカケに退職し、現在は漫画制作に専念しているという幌琴似さん(@xxxhorocoxxx)。夏の香りを感じられる青春漫画をどのようにして作り上げたのかなど話を聞いた。(望月悠木)

■高校野球が舞台だったワケ

――今回『共鳴するピッチ』を制作した背景は?

幌:他誌で自分の納得のいく漫画を描けず自信をなくしていたところ、本作の担当編集さんからメールをいただきました。私の漫画のどこが好きなのかを詳細に書いてもらい、「こんなに応援してくれている人がいるのだから、気持ちを切り替えてもっと自分の良さを出せる作品を描かなければ」と強く思いました。高いモチベーションを持てたからなのか、4日ほどで最初のネームが完成しました。

――タイトルの『ピッチ』は野球とトランペットにかかっていて、とてもオシャレでした。

幌:音楽、野球に関連する単語を挙げていく中で、どちらにも“ピッチ”という言葉が共通して存在することを発見したのでタイトルに使いました。本作のようにダブルミーニングで上手いことタイトルが思いついた時、アドレナリンが大量に出る気がします。

――なぜ高校野球を舞台に選んだのですか?

幌:野球選手の模写をよくやっており、「野球の漫画を描きたいな」と思っていました。また、担当編集さんが「吹奏楽部でトランペットを吹いていた」と聞き、「トランペットと言えば野球応援かな」と連想させて考えていきました。加えて、戦力外になった選手、同期入団の他の選手に遅れをとった選手など、なんらかの挫折を味わった人々に対する興味関心も強く、怪我で野球をできなくなった主人公にトランペットをやらせることにしました。

――ちなみに、幌さん自身、野球部、吹奏楽部に所属していた経験はありますか?

幌:高校時代に吹奏楽部に1年間だけ所属していました。吹奏楽部の男子部員と女子の先輩達との関係性、パート練習の教室の空気感、夏の野球応援の球場周りの雰囲気などは当時の記憶を頼りに描きました。

■セミの死骸が示していたモノ

――響介と若葉の2人はどのようにして練り上げていきましたか?

幌:どちらも実際の野球選手の髪型や顔立ちを参考にしています。性格については担当編集さんとの打ち合わせを重ねながら作り上げました。私が最初に出したネームでは、響介は今より野球応援に対するやる気がなかったですし、若葉も少し腹黒さがありました。ただ、最終的に2人とも明るく前向きな性格になって良かったです。

――響介と若葉を同じ高校にしても良さそうでしたが、あえて別々の高校に進学させた背景は?

幌:“距離が離れていてもお互いに良い影響を与え合っている”という構図のほうが、2人の友情がより際立つかと思いました。また、響介は野球を辞めてしまった今でも「若葉よりも先を行く存在でありたい」と思っているはずです。“2人は友達でもあるがライバルでもある”という関係性を示すために対戦相手の高校にしました。

――「響介は中学では名選手だった」ということを明確に説明せず、若葉の口から何となく響介が 良い投手だったことがわかる見せ方でした。

幌:初期のネームでは過去の響介が肩を抑えて苦しそうにするカットを入れていました。しかし、「気まずそうな若葉の態度などで響介に何かがあったことは伝わるだろう」と編集長からアドバイスを受け、そのカットは削りました。また、響介を見つけた若葉が口籠るシーンで、地面に転がったセミの死骸の絵を入れ、夏らしさと一緒に“野球ができる響介は死んでしまった”ということを表現してみたりもしています。

――他にも担当編集さんから見せ方でどのようなアドバイスをもらいましたか?

幌:「強い陽射し、地面に濃く落ちる木の影など、情景描写を通じて“夏の高校野球の温度・空気感”を演出したほうが良い作品になる」とアドバイスをもらいました。

――最後に今後の漫画制作の展望を教えてください。

幌:最近の一番の関心事が野球なので、何かしら野球の要素を組み入れた漫画を楽しく描き続けていければと思っています。まだ駆け出しのため、「読者のみなさんに自分のことを覚えてもらうことが大切」と思っており、何作か野球ネタで描いて「この人はよく野球を描いている人だ」と認知してもらえればと思っています。来年には違うことを言っているかもしれませんが……(笑)

(望月悠木)

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