104匹もの猫を個人で保護 エサ代などは月20万円以上 それでも里親探しのハードル上げるワケ

5部屋で104匹もの猫を保護している個人宅【写真:峯田淳】

猫を家族の一員としてお迎えする方法として、保護猫の譲渡を選択する人が増えています。そうした保護猫をお世話し、行き場を失っている猫の命を守るため、積極的に行動している人たちが少なくありません。コラムニスト・峯田淳さんが、保護猫活動について連載する企画。今回は、個人宅で猫の保護活動を行うはっちさんに、エサ代ほか猫のお世話のためにかかっている費用などを聞いています。

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「去勢手術、避妊手術の費用」ほか獣医師の協力も

横浜にある猫の家「はっち」(仮称)には104匹の猫がいます。「101匹わんちゃん」ならぬ、「104匹ニャンちゃん」です。

はっちさんの家は2階建て、1階には両親が住んでいて両親も猫を7匹飼っています。2階が「はっち」です。階段を上がると扉があり、開けてすぐの部屋が4歳までの猫の部屋、その一角に地震があった金沢から引き取った2匹の猫がいる出窓の部屋があり、右には5歳以上のシニア猫用の2間続きの部屋があります。

4歳までとシニア猫の部屋の間には、屋根裏部屋に上がる階段があります。屋根裏にいる猫は近づくと逃げて行く猫で、奥のスペースに固まっていました。一緒に行ったKちゃんが送ってきてくれた動画は、屋根裏部屋の猫たちの様子を撮ったものでした。

4歳までの部屋と屋根裏部屋は天井が四角い通り穴になっていて、猫たちは下まで降りてきてごはんを食べたりします。4歳部屋に入ったときは何匹かの猫が屋根裏部屋から、ジッと我々闖入者を見ていました。

はっちさんに、猫たちをどうやって育てているのか、詳しく訊いてみました。

「ごはん代だけでも月に最低15、16万円かかります。1日に4キロはフードがなくなっているから、月に120キロは食べますね。たくさんいるとカゼもひきやすいから、体調管理のため、できるだけ添加物の少ないごはんをあげるようにしています。缶のウエットフードも、食欲チェックのため毎日あげています」

トイレ用の砂は最低でも1か月に10キロが40袋、400キロくらい必要だそうです。砂は10キロ500円で、近所で安く買っています。金額にすると2万円になります。それからサプリメント、ウエットシート、オムツなど備品類……。これらだけで、月にざっくり20万円は超えるのではないでしょうか。

元保護猫の(左から)クールボーイとそうせきも去勢手術は済んでいる【写真:峯田淳】

そのほか、大変なのは猫にかかる医療費です。

「今、病院に通っている猫(こ)は5匹います。病院に行くのは1週間に1回くらいですね。行きつけの病院までは車で片道45分かかるけど、先生が事情を理解し、いろいろ力になってくれるので助かっています。補液や注射の処置が必要な猫は、先生に教えてもらって自分でやっているし、投薬とか包帯を巻くとかも。

去勢手術、避妊手術の費用もかかるけど、一般の値段よりはかなり抑えた金額で、やってくれていると思います」

“へそ天”で甘えてくれた巨漢猫のシュウちゃん【写真:峯田淳】

リモート業務で可能になった仕事と保護活動の両立

はっちさんが、今では104匹に増えた猫のお世話をできるのは、コロナになってリモートで仕事ができるようになった影響が大きいといいます。同じ会社に勤めていた友人と、ルームシェアを解消したのが19年秋。実家に戻り、20年春には世界中がコロナ一色に……。以来、リモートで仕事を続けています。

「会社に通っていた頃も必死に猫たちの世話をしていたけど、コロナでリモートになって、猫たちが増えてからは、在宅で仕事をしながら、24時間体制で面倒をみることができました。ごはんをあげるのはもちろん、水やトイレ、掃除や吐いたものの片づけ、治療や介護までつきっきりでみています」

はっちさんが不在のときもあります。例えば、地震に見舞われた能登の保護猫活動などです。そんなときは、はっちさんの母親が面倒をみてくれるそうです。

里親もつねに探しています。

「今は譲渡会が増えて、それが主流になっています。でも、私のように個人で対応する場合は、相手が一度も会ったことがない人になるので、ハードルを上げています。写真を見て『この猫を』と言われても、飼育環境や脱走、里親詐欺などの心配があるので、家の環境や家族構成を確認させてもらっています。知り合いのボランティアさんが家に行ってみたら、すごいゴミ屋敷だったなんてこともありました。そういう方はお断りするしかないですね。

里親さんと連絡を取り合うだけでも2、3か月はかけます。トライアルに入っても、その期間は基本3か月。そうなると、最初の連絡から正式な引き渡しまで半年はかかることになります。今まで66匹の猫が卒業して行きました」

シュウちゃんと同じキジシロ猫、我が家のガトー【写真:峯田淳】

そんな話を聞いているなか、ゴロンと横になって甘えてきたのは巨漢猫の「シュウ」ちゃん。我が家の長男「ガトー」と同じキジシロ猫。最初に挨拶してくれた、こなつちゃんといい、なんともかわいい猫ちゃんたちでした。

峯田 淳(みねた・あつし)
コラムニスト。1959年、山形県生まれ。埼玉大学教養学部卒。フリーランスを経て、1989年、夕刊紙「日刊ゲンダイ」入社。芸能と公営競技の担当を兼任。芸能文化編集部長を経て編集委員。2019年に退社しフリーに。著書に「日刊ゲンダイ」での連載をまとめた「おふくろメシ」(編著、TWJ刊、2017年)、全国の競輪場を回った「令和元年 競輪全43場 旅打ちグルメ放浪記」(徳間書店刊、2019年)などに加え、ウェブメディアで「ウチの猫がガンになりました」ほか愛猫に関するコラム記事を執筆、「日刊ゲンダイ」で「前田吟『男はつらいよ』を語る」を連載中。

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