「受給権」そのものが消失する場合も…必ず知っておきたい〈遺族年金〉が支給停止になる要件とは【相続実務士が救済策を助言】

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身内が亡くなったあと、故人がおもな生計を担っていた場合、遺族が受け取ることができる「遺族年金」。しかし、受給要件に該当せず、遺族年金が受給できなくなるといったケースも少なくありません。相続実務士である曽根恵子氏の著書『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より、遺族年金の受給ルールを詳しくみていきましょう。

国民年金と厚生年金は重複して受け取り可能

公的年金には「1人1年金」という原則があります。受け取れる年金の種類には、「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」の3つがあり、原則的にはこのうち1つの年金のみを選択して受給することができます。しかし、「国民年金」と「厚生年金」の2階建ての場合は、支払われる年金が1つの年金であるとみなされるので、重複して受け取れます。

つまり国民年金のみに加入していた故人の遺族は、「国民年金の遺族基礎年金」のみを、厚生年金に加入していれば、「国民年金の遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の両方を受け取ることができます。

ただし、遺族に「障害厚生年金」と「遺族基礎年金+遺族厚生年金」の2つの受給資格がある場合は、どちらの年金を受給するか選択しなくてはなりません。この場合、選択しなかった年金は支給停止となります。

なお、65歳以上で「老齢厚生年金」と「遺族厚生年金」を受け取る権利がある人は、老齢厚生年金が優先して支給されます。しかし、老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額を下回ってしまう場合は、遺族厚生年金の額と老齢厚生年金の額との差額が支給されます。

[図表1]年金請求書の書き方とポイント 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

選択しなかった年金でも受給権は失われない

年金の受給を選択する際、選択しなかった年金は支給停止となりますが、年金を受給する権利自体が消滅するわけではありません。万が一、選択した年金の受給権を失ったり、支給が停止されたりした場合は、選択替え(選択変更)をすることができます。

また、選択している年金よりも支給停止中の年金の方が高額になった場合も選択替えが可能です。

[図表2]遺族年金の選択と併給の例 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋 年金を2つ以上受けられる場合も

公的年金制度は「1人1年金」が原則です。たとえば、老齢年金と障害年金の両方を受け取ることはできず、どちらか1つを選ばなけらばなりません。ただし、[図表2]のように例外的に2つ以上の年金を受けられる場合があり、これを「併給」といいます。

遺族基礎(厚生)年金には、故人の死亡で労働基準法による遺族補償が行われる場合は支給停止になるなど、いくつかの停止要件があります。ただし、受給権は残るため、状況が変わって支給要件に当てはまれば支給が再開されます。受給権が消滅する状況には下記のようなことがあります。

受給権が消失する例

遺族年金の受給権は、以下の状況になった場合に消滅します。

①受給権者が死亡する

➁婚姻する(事実婚含む)

③直系血族および直系婚姻以外の養子になったとき
④離縁によって死亡した人との親族関係がなくなったとき
⑤子・孫が18歳になり最初の3月31日を過ぎたとき

遺族年金の受給資格がない場合の救済措置

遺族基礎年金の受給資格がない遺族にも救済措置として「寡婦年金」と「死亡一時金」が設けられています。「寡婦年金」は国民年金の保険料の納付期間が一定以上あった夫が、年金を受け取る前に亡くなった際、10年以上婚姻していた妻に支給されるものです。

受給条件は、夫の死亡時に妻が65歳未満であること。妻が自身の老齢年金を受給する年齢となるまでのつなぎとして、60歳〜64歳の間支給されます。こうした性格の年金であるため、妻が老齢年金を繰り上げて受給していたり、再婚した場合などには受給資格を喪失します。

「死亡一時金」は、国民年金の保険料を36ヵ月以上納めた人が、老齢基礎年金も障害基礎年金も受給せずに亡くなったとき、その人と生計をともにしていた遺族に支払われるものです。受給資格には優先順位があり、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹の順で、もっとも優先順位が高い人が受け取れます。

なお、寡婦年金と死亡一時金の両方を受け取ることはできないため、その両方の受給資格がある場合は、どちらかを選択しなくてはなりません。

故人の年金加入状況や遺族の年齢などでどちらが有利になるか変わってくるため、迷った際は年金事務所や年金相談センターで、判断をあおぐとよいでしょう。

[図表3]寡婦年金と死亡一時金の受給対象 出所:『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より抜粋

ひとり親家庭の生活安定を支える制度がある

世帯主が亡くなり、ひとり親の家庭となってしまった場合は、条件によって「児童扶養手当」を受給できることがあります。具体的には、子どもが18歳未満であるか、18歳に達した日以降の最初の3月31日までにある子(障害等級1級・2級をもつ場合は20歳未満)であることが条件となります。

児童扶養手当とは:ひとり親家庭の子の養育者に支給する手当

ひとり親家庭の生活安定などを目的に支給される手当。「児童手当」とは別の制度で、ひとり親家庭は「児童手当」と「児童扶養手当」の両方を受給することも可能です。

なお、公的年金を受給していて、年金額が児童扶養手当額より低い場合は、差額分の児童扶養手当を受給することができます。ただし、子どもが遺族年金などを受給する場合などは差額の計算が複雑になるので、現住所のある市区町村役所の児童扶養手当窓口などに問い合わせましょう。

曽根 恵子
株式会社夢相続 代表取締役
相続コーディネイター

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