スラダン聖地の今 観光客殺到も鎌倉市と江ノ電は警備員増で対応「交通ルールを意識して」

実際の踏切、多くの人が詰めかけていた【写真:ENCOUNT編集部】

現場には現在でも多くの外国人観光客の姿が

バスケ漫画の金字塔で、2023年には映画『THE FIRST SLAM DUNK』が映画興行収入ランキング1位を獲得したことでも話題の漫画『SLAM DUNK』には“聖地”が存在する。神奈川県鎌倉市にある江ノ島電鉄(以下、江ノ電)「鎌倉高校前」駅のすぐ横にある踏切だ。映画が大ヒットを記録した昨年は中国を中心に多くの観光客が訪れたことで、大きな問題に。あれから約1年。インバウンド人気が高まる今、ゴールデンウイーク(GW)や観光シーズンを迎える前に現状を取材した。(取材・文=関臨)

4月もなかばに差しかかったとある平日。午前10時30分ごろに到着すると、無人改札機を降りた先の踏切周辺では、先着客が写真撮影を行っていた。ツアーで訪れている人も多く、中には「IVAN 11」と書かれたバスケットボールのユニホームを着た外国人の姿も。30~40人ほどの人が入れ替わり、立ち代わりで景色を見ていた。

インドから来た家族に話を聞くと「インターネットで出てきたんだ」と今回訪れた理由について明かす。砂浜と広大な海が広がり、江の島も見える風景に「とても静かで落ち着いているわね。すごくきれいだわ」と小さな娘と手をつないだ女性は目を輝かせていた。中国出身の男性2人組は撮影のために、三脚を持参するほどの“ガチ”ぶり。「バスケットボールの漫画を見たんだ。中国ではもちろん有名だよ」と話し、うまく撮影できた瞬間には満面の笑みを見せていた。

また、ウルグアイ出身の男性2人組はアニメ『SLAM DUNK』を見て、この地を訪問。母国での認知度は分からないとしながら、現場の混雑状況について聞くと「もう少し人が少ない方が良いね」と話した。

懸念される「オーバーツーリズム」

他にも、著名なアーティストもミュージックビデオ(MV)の撮影に訪れたこの踏切には国内外から人が押し寄せる一方で、問題も起きている。取材した当日も、写真撮影のために車道にはみ出した観光客を警備員が注意する場面や、観光客が公園の植え込みに入り込む様子が見られた。また、踏切付近の交差点に路上駐車を行い、左折したい後続車がクラクションを鳴らす場面もあった。

懸念されているのは、「オーバーツーリズム」の発生だ。観光地が受け入れられる以上の観光客が殺到することで、マナー違反や近隣住民への生活被害、地域の環境問題などが引き起こされる。観光庁は被害を未然に防ぐため、昨年から支援を実施。「先駆モデル地域」、「一般型」には選定された藤沢エリアには間接補助事業として、国からそれぞれ最大8000万円、5000万円、併せて1億3000万円の補助金が支払われることになっている。GWや夏休みなど、行楽シーズン本番を迎える今後に向け、同市と江ノ電はどのような対策を行っているのか。

同市と江ノ電は今月から、従来踏切前に配置していた警備員を1人から2人に増員して対応を行っていると明かした。これまではGWや夏休み、多くの訪日客が見込まれる中国の春節など繁忙期を中心に、市と江ノ電が協議した上で決められた日程で警備員を配置していたが、今年度からは365日人員を配置する。

「利用状況や観光客の増加などさまざまな要因から、警備員1人では対応が不十分であると判断しました」と話したのは同市役所都市計画課の担当者。現在は効果について状況を見ている段階で、引き続き周辺住民や道路、駅の利用者などと意見交換をしながらその都度できる限り対応していくとのことだ。

鎌倉市にはかねてから、近隣住民や道路の利用者から踏切周辺の安全面などについて懸念の声も寄せられていたという。また、江ノ電の担当者によると、過去には現場付近の片側一車線の国道134号線にツアーの大型バスが訪れ人の乗降のために路上駐車したことで、交通の妨げになったことも報告されている。

市都市計画課の担当者は「一般の方、車ともに行き来があるところですので、訪れる方1人1人が交通ルールを意識して来ていただければ」と喚起。江ノ電の担当者も「電車の利用のマナーをしっかり守っていただきたい。駅のホームでも白線を越えて写真撮影を行う様子が見受けられる。お互いが気持ち良く利用できるよう、危険な行為はやめ、楽しく安全に乗っていただきたい」とコメントした。関臨

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