50代で「異業種」に挑戦…ホテル→IT業界へ転職も“違和感なく”働けるワケ【人材開発コンサルタントが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

以前と比べて、転職が一般的になってきている現在も、ミドル・シニア世代、しかも異業種への転職は、決して簡単ではありません。しかし、あるポイントを抑えることで、転職の成功率が飛躍的に上がる可能性があります。50代でホテルのマネージャーからIT業界への転職を成功させた田中さんの事例からみていきましょう。『55歳からのリアルな働き方』(かんき出版)著者の田原祐子氏が解説します。

コロナ禍でホテル稼働率激減…IT業界への転職を決意した田中さん

ホテルのマネージャーとして長く勤めてきた50代の田中さんは、IT企業のマネージャーに転身しました。まったく畑違いの職場への転職ですから、おそらく驚かれた方もいることでしょう。

転身のきっかけは、「コロナ禍によるホテル稼働率の激減」が原因です。転職をしようと思っても、宿泊・旅行・観光等、すべての領域が、壊滅的なダメージを受けているため、この業界への転職は考えられなかったそうです。

田中さんは、自分自身の強みである「実践スキル」を棚卸ししました。ご自身の潜在的な可能性や、やってみたいこと、また市場価値の高い「メタスキル(どの部門にも転用できるスキル)」の存在に気づいたのです。

「自動化システム」に関心大…思い切って“IT業界のマネージャー”にチャレンジ

田中さんは、現在、多くのホテルで導入されている、予約を促進するためのマーケティング自動化システムツールMA(Marketing Automation =マーケティングオートメーション) や、営業活動や予約状況を管理する、営業活動自動化システムSFA(Sales Force Automation)について、自分自身のやりたいマネジメントが上手く反映されるため、システムには明るくないものの、大変興味を持っていました。

そこで、コロナ禍でむしろ業績が拡大しているIT業界について調べたところ、マネージャーの求人があることに気づきました。

しかし、田中さんがこれまで従事してきたホテル業界の専門分野の知識は、IT企業ではまったく活⽤できません。

一方、田中さんのホテルにおける実践スキルは、⼈材のマネジメント・社内リソース配分・年間事業計画のスケジューリング・実績管理能⼒等です。業界は違っても、ある程度活⽤できるわけです。これらは、まさにメタスキルです。

田中さんは、思い切って面接を受けたところ、悲願が叶い見事採用されました。

田中さんに、「ITの知識は、どうやって学習されるのですか?」とたずねたところ、「ITに関しては初心者ですから、むしろ知ったかぶりをせずに、若い人にも教えてもらっていますよ! みなさん、親切に教えてくれるので、楽しく仕事をしています」という返事が返ってきました。

“ホテルのマネージャーとIT企業のマネージャーは、本質的に同じ”

「マネージャーだから、何でも知っていなくてはならない」というのは、むしろ私たちの思い込みかもしれません。田中さんの偉ぶらない人間性や、素直に何でも質問できる行動特性も功を奏して、晴れて採用になったのだと感じます。

田中さんに言わせれば、実際に仕事をしてみると、マネジメントで重要なのは、クライアントとの交渉や、社内のメンバーが予定通りシステム構築できるように人間関係やスケジュールを調整することなのだそうです。であるならば、ITの知識より、むしろ調整能力や管理能力が求められるわけです。

田中さんは、「以前の仕事(ホテルのマネージャー)と今の仕事(IT企業のマネージャー)は、本質的に同じ。自分としては、違和感なく、以前と同じ仕事をしていると思う」と言います。

このように捉えれば、これまであなたが経験してきた役職や役割の大部分は、他業界でも十分活用できる、とても汎用性の高いメタスキルなのです。

田原 祐子
人材開発コンサルタント/ナレッジ・マネジメント研究者

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