<1>働くほどネグレクト ひとり親の現実 希望って何ですか

農産物直売所で買い物をする由紀恵さん。いつもできるだけ安い食材を探している=4月下旬、県央

 「宿題やっておきなよ」

 今月上旬、平日朝。県央地区に住むシングルマザーの由紀恵さん(42)=仮名=は、春休みで家にいる小学生の息子2人にそう言い聞かせると、慌ただしく職場に向かった。

 平日の日中は派遣社員として事務の仕事に就いている。今年に入ってからは週に3日、午後9時から午前0時までコンビニでも働き始め、ダブルワークとなった。

 高校生の長女もおり、暮らしに余裕がない。夜勤のある日は日中の仕事を終えるとすぐに帰宅し、息子2人をお風呂に入れ、夕食を食べさせてから再び仕事に向かう。夜の間の息子たちの面倒は長女に見てもらっている。

 子どもたちとの時間が取れないのが悩み。「ゆっくり話を聞いてあげるとか、宿題を見てあげるとか」

 だが、収入を増やさなければ生活が立ち行かないのが現実だ。

    ◇  ◇

 ひとり親家庭の親の多くは、子育てするための収入を得るために働く必要がある一方で、働けば働くほど子どもと接する時間が削られ、「ネグレクト(養育放棄)」状態に陥るジレンマを抱えている。

 由紀恵さんの月収は事務の仕事とコンビニの夜勤、児童扶養手当などを含めて約20万円。このうち夜勤の給料は月に4万円弱で、長女の弁当の食材費や通学定期券代などに充てている。ほかの収入はアパートの家賃の支払いや生活費だ。

 長男は地域のスポーツクラブに所属し、土日は朝から夕方まで練習や試合がある。由紀恵さんには車での送迎のほか、月に数回、お茶当番の役割もある。

 子どもがしたいと思うことは「何とかしてあげたい」のが本音。親子の時間を削ってでも収入を増やし、希望をかなえながら家計を何とかやりくりしている。

    ◇  ◇

 生活困窮者を支えるためめの制度「生活保護」。しかし、由紀恵さんはこれまで「申請を考えたことはない」。さらに言えば、生活保護にマイナスのイメージがあり、「受けたくない気持ちが先に立つ」という。

 受給の前に資産の活用が優先されるため、もし車を資産と見なされて所持が認められなければ、スポーツクラブに通う息子の送迎ができなくなることも不安だ。そもそも、預貯金額を踏まえると受給が認められない可能性は高い。

 生活保護は1950年に現行制度になって以降、大幅な変更なく今日に至っている。

 「今まさに貧困である人が生活保護に結びついていない」と指摘するのは、貧困研究の第一人者・日本女子大の岩田正美(いわたまさみ)名誉教授だ。

 「生活保護を受けるなら全部面倒を見てあげるというような制度なので、『生活保護受給層』という階層ができてしまった」。

 皮肉にも困窮者を救うはずの制度自体が、利用を妨げるスティグマ(負の烙印(らくいん))を生み出したと指摘する。

    ◇  ◇

 セーフティーネットの象徴である生活保護制度。憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するが、スティグマなどから貧困状態にある人を捕捉できていない現実がある。働けば働くほど、子どもとの時間が持てなくなるひとり親の現実から、あるべきセーフティーネットの姿のヒントを探る。

© 株式会社下野新聞社