あの世と現世の境界「黄泉比良坂」への案内がカジュアル過ぎる?! SNSで話題の看板と周辺を調べてみた

今回話題となった国道9号沿い(米子-松江方面)から「黄泉比良坂」への道を案内する看板=島根県松江市東出雲町

 島根県松江市東出雲町の黄泉比良坂(よもつひらさか)の案内看板がSNS上で話題となっている。「黄泉比良坂 この先350メートルを左折」という極めてシンプルな内容。神話では、よみの国と現世の境目とされるだけに「こんな気軽に案内していい場所なのか」とX(旧ツイッター)の投稿には9万件を超す「いいね」と、2万5千件を超すリポストが付いた。新しく設置された看板について調査した。

■よみの国と現世の境界

 黄泉比良坂は、古事記や日本書紀に登場するよみの国と、現世の境界とされる場所だ。「聖闘士星矢(せいんとせいや)」や「ノラガミ」など漫画やアニメでも登場する。

 古事記に黄泉比良坂は「出雲の国にある伊賦夜坂(いぶやさか)である」との記述があり、伊賦夜坂がある松江市東出雲町揖屋の平賀地区に同じく黄泉比良坂があるとの伝承が残る。今は死者に宛てる手紙のポストが設置され、地元保存会などが大切に守っている場所だ。

■案内看板 立てまくり

 今回バズった看板は、米子方向から松江市向に向かう国道9号沿いの三差路(松江市東出雲町揖屋)にある。横断幕状で2024年2月末に設置された。

 30年以上前、ほぼ同じ場所に東出雲町交通安全協会が立て看板を設置していたが、老朽化などで2018年度に撤去された。それ以降、米子市から来る車に対する看板はなかった。

 案内に沿って車を走らせると踏切があり、さらに三つの看板が道を教えてくれる。別の場所にも案内があり、周辺で合計10個以上設置されている。

踏み切り付近には黄泉比良坂を案内する看板が3つも集まっている

 堺市から車で訪れた会社員の男性(49)は「看板が至る所にある。これだけあれば迷わない」。黄泉比良坂がある東出雲町揖屋の平賀地区に60年以上住む女性(81)は「県外者向けに合併前の東出雲町が多くの看板を取り付けたのだろう」と話した。

■「横断幕」はスピード優先で

 「きっかけはNHK番組『ドキュメント72時間』で取り上げられたからです」と話すのは、設置者の松江市観光施設課の松本真一課長(55)だ。

 2023年10月の番組放送後、市東出雲支所などにアクセス方法を問い合わせる県外者が続出。スピードと予算の兼ね合いで横断幕状にした。設置までの期間は約1カ月で、費用は8万円。往来が多い国道9号から目に留まりやすいようにデザインや文字をシンプルにした。

 松本課長は「話題になるとは予想外だが、関心を持ってもらえる機会としてポジティブに捉えている。ただ、横断幕状の案内看板は長期的には向かない。今後、新しいデザインの看板を地元の皆さんと協議しながら作りたい」と述べた。

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