「Haruka Murooka」4月に待望のお店がOPEN。新しい時代を紡ぐ女性パティシエールが魅せる「デザートコース」

東京を中心に、カウンターで食べるデザートが大きな食のムーブメントに。「デザートコース」とは、レストランのコース料理のようにアミューズから始まり、メインディッシュの流れですべての品をデザートを堪能できるもの。出来立てだからこそ楽しめる食材の繊細な香りや食感。調理法、火入れ、盛り付け、すべての工程でパティシエの技術が存分に発揮されるため、食通の間では今最も人気のジャンルになっています。

都内でデザートコースを楽しめるお店はまだ数えるぐらいしかありませんが、少しずつ増えており、今年話題ともいえるお店が4月11日にOPEN。店名は「Haruka Murooka」。このお店のオーナーシェフである室岡春香さんの名前がつけられており、名店でキャリアを腕を磨いてきた室岡さんが「デザート」に本気で向き合うお店。そんな“デザートコース新時代”を切り開く室岡さんのお店に早速取材に伺いました。

心ゆくまで、スイーツに没頭できる空間

お店のロケーションは、南青山。乃木坂駅からが一番近く、少し距離はあるものの青山一丁目駅から歩くと青山公園が広がり、心地よい空気を感じながらお散歩感覚でお店へ。

通りのわき道を入るとお店に到着。店内はカウンター6席で、明るくやわらかな色合い。デザートがより色鮮やかに引き立つようなカウンター席と、落ち着く空間を目指したそう。

外観、そして内観のカウンターにあるロゴのデザインは、イラストレーターである旦那様が担当。お花のモチーフ一つをとっても、室岡さんのたくさんの想いが込められています。

お花は、道端に咲き行き交う人にさりげない癒しを届ける存在。“このお店も自分も、この南青山の地でそうありたい”と願ったという。またロゴのデザインのHMは、HとMを筆記体で描きながらイメージを掘り下げるうちに、MをHに惑わせ、お花のような形になったんだとか。

室岡さんはフレンチの料理人からキャリアをスタートさせ、独立前の前職は広尾にある「薫hiroo」。あの食のイノベーターとして有名な長谷川稔さんが手掛ける店。そこでパティシエとして、コース料理の最後のデザートを担当されていました。

今回独立し、このお店を南青山に作ったのも薫hiroo時代からのお客が来やすい場所にしたかったという理由があるそう。また近くには美術館、ソルソパークなどがあり静かで“品のある空気感”が気に入っているんだとか。

室岡さん「カウンター席のお店ながらも気張らずに、食への意識が高い人たちが集まって情報交換をしながら、心ゆくまでデザートを食べる事に没頭できる空間を作りたいと思っていました。一皿一皿、見た目はもちろん香りや食感、味わいを五感で楽しんでいただき、非日常を感じられる、デザートのテーマパークのようなお店を目指しています。」

ありそうでなかった“気配り”

今回の取材で、最も驚いたのがカトラリー。テーブルの上に置かれた2種類のカトラリーは、室岡さんのレストラン時代の経験が活かされています。

室岡さん「レストラン時代に、お客様で金属アレルギーの方がいて。そういった方々のためにも、セラミック素材であるジルコニアのスプーンを一部使用しています。それにこの素材のほうが食材の味を邪魔しないんです。」

室岡さんの気配りはカトラリーだけではありません。トイレへの通路は広く、トイレの前は前室のような空間が。そしてトイレも広々とした空間に。「カウンターの奥がいきなりトイレにならないよう、居心地の良さを大事にしたいと思い設計を考えました。」そんな室岡さんのあふれる“おもてなし”心を感じます。

香りの余韻に包まれる、圧巻のデザートコース

続いては室岡さんの真骨頂である、デザートコースを一つ一つ紐解いていきます。まずデザートコースは完全予約制。13時から開始の回と、17時からの1日2回転になっており、価格は季節と食材にもよりますが。だいたい1万8000円程度で、お酒とのペアリングにすると+5000円となっています。品数はだいたい5~6品と、ペアリングのドリンク(アルコールorノンアルコール)が3品程度となっています。

OPENしたばかりの現在はコースのみですが、ゆくゆくはお店の営業がある金土日以外の日を焼き菓子の販売日にしたいそう。

まず一皿目が真っ白なデザート。室岡さんの地元である静岡県の富士山麓の朝霧高原の新鮮な牛乳を使用。朝霧高原をイメージしており、ジェラートは濃厚でありながらも口どけはなめらか。富士山の美味しい水と空気、そして牧草をイメージした器をオリジナルで作ってもらったそう。1品目からシンプルながらも素材の良さを大切にしている、室岡さんのアイデンティティあふれる一皿でした。

食べている途中で、塩とオリーブオイルをかけることで味の変化だけではなく、牛乳の甘みがぐっと引き出され、シンプルながらも計算し尽されています。

続いては室岡さんが最も得意とするフレッシュな柑橘を使ったデザート。下はフランス発祥のチーズケーキであるクレームダンジュと、その上には甘酒のジェラート。八朔に清美オレンジはフレッシュで使用し、デコポンは果汁を絞り、皮を加えてジュレに。金柑はシロップをぎゅっとしみ込ませて、コンポートの状態に。最後は黄金柑×清見タンゴールを掛け合わせて生まれた姫小春の皮をふりかけます。大きな木になるけれど、収穫量の少ない柑橘。

柑橘それぞれが持つ特性。例えば甘み、渋み、苦み、食感を存分に引き出し、柑橘の良いところも悪いところもあえて美味しさの一つとして調合していく様子はまるで魔術師。柑橘の魔法がかけられた一皿に、さらにレモンバームやレモンマリーゴールドの野性味あふれる香りが踊ります。

ペアリングのワインはドイツのリースリングワインで、デザートワインのような甘みは、柑橘のデザートの甘みの部分を補ってくれるような組み合わせ。柑橘の酸味や香りの余韻をより引き立たせてくれます。

箸休めならぬスプーン休めとして、2品が。まずは淡路島の新玉と金時人参、紫人参、京くれないの3種の人参のチュイールやピューレを使ったこちらの一皿。

口の中でまるで野菜のポタージュを飲んでいるかのような甘みとコク、そして新玉のアイスパウダーをかけた仕上がりはまるで野菜スープのようなうま味を感じます。

そして続いては生地からその場で作り焼き上げられるフォカッチャが。焼きたてだからこそ美味しく、さらに生ハムの塩味が一度口の中をリセット。この生ハムにもこだわりがあり、軽く熟成させた繊維質がやわらかなメス豚の生ハムなんだとか。温かいものをこのタイミングで食べられる嬉しさは、料理のコースと真逆の発想ながらも理に叶った流れに。

このお店を背負うスペシャリテ「水カカオ」のグラスデザートの凄み

「コースの定番にしようと思っているメニューがある」そう話す室岡さん。続いて出されたグラスデザートが、そのうちの一つになるそう。

「水カカオ」と名付けたメニューで、お水のように飲めるチョコレートをイメージして表現されたグラスデザート。カカオを水で伸ばし作るアイスは最近注目の手法で、カカオが持つ苦味、酸味、コク、香りを感じながら重たくなく、すっと口の中で消えていくのが特徴。

寒天で固めたカカオのお出汁と、水とカカオで作ったアイス、そして食感とコクのジャブを打ってくれるコーヒーは、コロンビア産深煎りコーヒーのグラニテ。中目黒のカフェファソンさんの豆を使用し室岡さんの徹底した素材選びのこだわりを感じます。仕上げは丸い甘みと香りを感じられるカカオの泡と極薄のチュイール。

これ以外にも、季節によってメインのデザートをパフェにするという。“水カカオとパフェ”この2つがこのお店の主役になるそう。

王道でありながらひと手間かけたスフレ、ヴァシュランがメインディッシュに

そろそろまた温かいものが食べたい、そう思ったタイミングで登場したのはスフレ。丸ごとせとかを器にして焼き上げられたスフレは、実は薫時代の室岡さんのスペシャリテ的メニュー。くり抜いた果汁でアングレーズ(カスタード風味のソース)を作り、メレンゲと合わせて焼き上げています。食べてみると上の部分はよく焼けていてふわふわ、中の器の部分は果汁がじゅわっと合わさり、トロトロ食感に。

キャラメルソースを途中で入れることで、口の中でクレープシュゼットになるという。

そしてデザートコースの定番でもある、ヴァシュランは季節の苺をふんだんに使用。苺は品評会でも金賞を獲得した埼玉県産のあまりん、そしてとちおとめの2種類を組み合わせに。アイスもこの2つをブレンドし、甘みが強いあまりんだけではなく、とちおとめの苺らしい酸味や香り、さっぱりした後味を合わせることで苺の持つ本来の美味しさをしっかり引き出します。

苺に合わせるのはピスタチオのセミフレッドアイスクリームに、ローストしたピスタチオにフロマージュブランを合わせ、苺に合うようにレモンの酸味を加えてバランスを取ります。

そしてメインディッシュも終わったところで、ここで出てきたにはまさかの「チュロス」。着想は室岡さんが大好きという、TOHOシネマズのチュロスから。その味が大好きで、チュロスをシナモンシュガーでシンプルに仕立てています。

揚げたてで中はトロッと。そして盛り付けたお皿は、Tetsuya Hirota氏の作品。器と作家さんが好きな、室岡さんのセンスと世界観が広がります。そこに器があれば、デザートが生き生きとするかのように…。

最後に、とってもかわいらしいサイズ感のお茶菓子が。苺とカスタードクリームを合わせたミニマカロンと、焼き芋にしたさつまいも「紅はるか」のモンブラン。こちらも室岡さんがお茶菓子として、定番に出していた組み合わせです。

素材と向き合い、徹底した追及が食材の良さを引き出す

室岡さんが考える「デザートコースの在り方」を伺うと、お料理の後のデザートとコースで出すデザートでは甘さの分配やボリュームも変わってくるとのこと。これまで勉強のためにデザートコースを食べてきた経験と、前職の職場で出していた料理のコースを参考にして流れを考えているんだとか。

酸味、苦味、甘味、塩味、あったかい、冷たい、煮る焼く蒸すetc.様々な調理方法を使って、飽きさせず最後までお腹いっぱいになりすぎないように。そして提供するタイミングも大切にしながらコースを考えているそう。さらにコースの流れだけではなく、食材を大切にする姿も。

室岡さん「“使っている食材の良さをいかに伝えられるか”ということに、全神経を集中させています。せとかのスフレもそうで、本来捨てられる皮を余すことなく使用し、うま味をしっかり出し切っています

フルーツはそれだけでとっても魅力的なので、そのフルーツのキラキラしている感じやシズル感は魅せる部分として大切にしています。今回お店を作るにあたり、たくさんの作家さんに私のデザートのイメージを伝えました。そのデザートのために作られたお皿もあります。その器の部分も一緒に楽しんでいただけたらと思います。」

パティシエという仕事が魅せられる新しい領域や世界観を存分に堪能できる、室岡さんのデザートコース。ぜひ一度ご賞味あれ。

About Shop
Haruka Murooka
東京都港区南青山1丁目21−9 LUXE南青山 1F-B
営業時間:13:00~20:00
定休日:月、火

Photo&Writing/坂井勇太朗

© 株式会社風讃社