【社説】ピンチの書店 「本との出合い」守らねば

ふらりと入った書店で思わぬ一冊に出合うことがある。未知の世界や多様な価値が待っている場所だ。

人生を豊かにしてくれる書店が、経営難で減り続けている。2023年度までの10年間で4700店近く減り、1万店を割りそうだ。

書店がない市町村は4分の1を超える。生活圏からなくなれば、住民と本との距離は遠くなりかねない。

経済産業省は書店振興を目指すプロジェクトチームを省内に発足させた。書店を「文化創造基盤」と見なし、新規出店や経営を後押しする施策を検討する。業界の声を十分に聞き、政府全体で思い切った支援をしてほしい。

経営難の背景にはインターネットの普及や人口減少がある。かつて収益の柱だった紙の雑誌とコミックの売り上げが落ち込んだ。

電子書籍は10年代後半から伸び始め、23年には出版市場の3割を超えた。特にスマートフォンで手軽に読める電子コミックが急伸し、紙のコミックの3倍に達する。

ネット通販の影響も受けている。大手アマゾンは送料無料をうたい、当日や翌日に届くこともある。ポイントが付くので実質値引きとなり、買う側には便利でお得だ。

消費者が利便性を追求するあまり、書店を窮地に追い込む社会は文化的と言えるだろうか。現状に目をつぶるわけにはいかない。

フランスには書店を保護するため、ネット書店の送料無料を禁じる「反アマゾン法」がある。有料になれば利用者の負担が増え、反発と本離れを招くかもしれないが、検討に値する。書店の存在意義について理解を深めるきっかけにもなる。

出版業界の取り組みは物足りない。出版社、本を書店に届ける取次会社、書店の3者は危機意識を共有すべきだ。仕入れ値を引き下げ、書店の要望に柔軟に対応するなど、特に大手出版社が中心になってできることがあるはずだ。

韓国では公共図書館や学校図書室が本を購入する際、地域の書店を優先している。日本でも進めたい。

地元の書店で使えるクーポン券を配る自治体もある。福岡県古賀市は物価高騰対策の一環で、高校生までの子どもに3千円分の図書カードを贈った。自治体には読書環境を整える役割がある。

書店の経営努力はもちろん必要だ。読書会や店主ならではの選書でファンを増やしている店がある。カフェを併設するなど、九州でも個性的な店が増えている。誰もが居心地の良い空間づくりに努めてほしい。

たとえ規模が小さくても、書店には地域文化の発信やまちづくりの拠点になる可能性がある。

憲法21条は出版の自由を保障している。全国津々浦々で享受できることが重要だ。私たち読者も身近な書店を支えていきたい。

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