50代まで舞台一筋 かわいらしさと色気を生み出す吉田鋼太郎の「率直さ」【今週グサッときた名言珍言】

吉田鋼太郎(C)日刊ゲンダイ

【今週グサッときた名言珍言】

「それはただの強がりなんですよ。負け犬の遠吠え」
(吉田鋼太郎/フジテレビ系「だれかtoなかい」4月14日放送)

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吉田鋼太郎(65)といえば、可愛らしさと色気を兼ね備えた“おっさん”俳優として、お茶の間でも大人気だ。しかし、50代までは舞台一筋で、テレビドラマにはほとんど出ていなかった。そんな吉田が「映像の世界なんかに行って」といった意識はあったのかと問われた際の答えが、今週の言葉だ。「(演劇俳優は)そうでも言ってないと、やってられない」と続け、ちゃめっ気たっぷりにほほ笑んだ。

吉田は高校時代に教師に勧められ、シェークスピア作品の舞台「十二夜」を見て衝撃を受け、役者を志した。大学ではシェークスピア研究会に所属し、同じ「十二夜」で初舞台を踏んだ。その後、「シェイクスピア・シアター」などに在籍し、日本有数のシェークスピア俳優として活躍。蜷川幸雄と初めて仕事した際、稽古で彼の演技を見た蜷川は「表情が変わり、食い入るようになり、最後は口をぽかんとあけてた」(講談社「週刊現代」2018年5月19日号)という。それだけの演技を見せ、認められた吉田は「人生が変わった」(同前)と振り返る。

そんな演劇人生を歩んできた吉田だが、実は20代の頃にテレビドラマにも出演したことがあった。エキストラではなく、ちゃんと役付き。ワクワクして演じたが、オンエアを見ると後頭部しか映っていなかった。「ふざけんなと思ったんですよ。もう嫌だと。こんなことされるんだったら、俺はもうテレビなんか出ねぇぞって思っちゃった」(日本テレビ系「おしゃれイズム」14年12月7日)

その意識を変えたのが、蜷川の舞台で共演した小栗旬だった。小栗は「テレビに出ろ」「映像に出なきゃダメ」「名前を売らなきゃ」と吉田に繰り返し諭した。そして10年、「絶対、僕が悪いようにしないから」と説得され、小栗の監督映画「シュアリー・サムデイ」に出演。そこで映像の世界の面白さを知った吉田は、積極的に映像作品に出ることとなり、14年のNHK朝ドラ「花子とアン」などで、55歳にして世間的なブレークを果たすのだ。

冒頭の番組で吉田は、意識している俳優を聞かれ、「言いたくはないですけど」と言いつつ、役所広司を挙げた。特別仲が良かったりしない限り、同年代で同系統に見られているような人の名前を出すことはなかなかできない。けれど、吉田は率直にそう答え、日本アカデミー賞を何度も受賞していることをちゃめっ気たっぷりに悔しがる。

そんな率直さが可愛らしさと色気を生んでいるに違いない。

(てれびのスキマ 戸部田誠/ライタ―)

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