指定管理鳥獣に追加のクマ、環境省担当者が話す鹿と猪との扱いの差 昨年2300頭を捕獲の秋田県は対策講座を開催

ツキノワグマは秋田県で昨年1年間に2300頭が捕獲された ※画像はphotolibrary

鋭い爪と尖った牙。時には人間を襲うこともある巨大動物・クマ。昨年、このクマが日本列島各地で猛威を振るった。

昨年、日本列島を震撼させたクマによる被害を、ワイドショースタッフが振り返る。

「7月には“OSO18”の名で知られた、北海道の巨大ヒグマが退治されました。“OSO18”が北の大地で襲った乳牛の数は66頭。大きな話題を呼び、NHKでは特集番組が組まれたほどです」

クマが大暴れしたのは北海道だけではない。北海道から津軽海峡を超えた先にある青森県でも、本州から四国地方まで生息するツキノワグマが市街地で大量出没していたのだ。

「世界遺産である白神山地のふもとに広がる青森県の西目屋村では、23年だけでクマが70頭以上も出現。お隣の秋田県はより深刻で、この1年間だけでクマによる人身被害が70人にも達しました。また、県民による市街地でのクマの目撃件数は3700件以上。もはや東北エリアはクマ大国といった様相を呈しています」(前同)

市民を恐怖のどん底に叩き落とす、クマの大量出没。そんな緊急事態に、環境省も対策に本腰を入れ始める。4月16日、捕獲や調査に国の交付金が支給される「指定管理鳥獣」に、ヒグマとツキノワグマを追加したのだ。この聞きなれない「指定管理鳥獣」という言葉。どういう意味なのか。弊サイトは、環境省・鳥獣保護管理室の担当者に話を聞いた。

「指定管理鳥獣とは“広域的かつ集中的に管理を図る必要がある鳥獣”を指します。今回はヒグマとツキノワグマが追加されたわけですが、以前から指定管理鳥獣に指定されていた動物に、鹿と猪がいます」(環境省・鳥獣保護管理室の担当者)

だが、鹿と猪、ヒグマとツキノワグマでは、指定管理鳥獣としての扱いに差があるという。どういうことか。

「鹿と猪は畑や田んぼにある農作物などへと農業被害を引き起こすというのが、指定管理鳥獣に指定された主な理由です。

一方でクマの場合は、人身被害が多いというのが実情です。春先ですと、山菜採りへと出向いた人が、冬眠明けのクマに山中で遭遇するケースが多く報告されています。秋以降ですと、エサとなるドングリやブナの実が山で不作となり、市街地へとクマが出没。人と遭遇し、人身事故へとつながることが多いですね」(前同)

■「鉄の柵は壊すから」電気柵を設置“クマ対策のリアル”

市民生活に影響を及ぼすようになっているヒグマとツキノワグマ。今後、国は自治体におけるクマ対策の専門人材や捕獲技術者の育成・確保を支援する、と報じられている。その点を前出の環境省・鳥獣保護管理室の担当者に尋ねると、

「国としては都道府県へと、クマ対策に使う指定鳥獣交付金を創設するということでして、実際にクマ対策に取り組む人材育成は各自治体が担当します」(環境省・鳥獣保護管理室の担当者)

とのこと。ならばと、23年度全国最多となる2300頭ものクマが捕獲され、もはやクマ大国と化している秋田県の県庁自然保護課の担当者に、今後の人材育成方針を尋ねた。

「秋田県には現在、野生動物の専門家が女性2名、男性1名の計3名。専門職のメンバーを中心に市町村の職員へと毎年5月に、クマに対する座学と実践訓練における指導の場を1回ずつ用意しています。専門職の職員が指導をすることで、県内にいる職員のクマに対する知識向上を図っています」(県庁自然保護課の担当者)

具体的にはどのような指導を行なっているのだろうか。

「実践訓練となりますと、実際にクマが出現した農地へと市町村の職員が出向き、クマの生態や行動形態を専門職の県職員から学んでいただきます。クマは柿の木などに誘われて、人里へと出てくることも多い。そういった知識を現場で得て、市町村での木の伐採活動などに活かしてもらうのです」(前同)

他にも秋田県の市町村職員は、電気柵の設置などを実践訓練で学ぶという。

「クマの弱点は鼻と言われています。そのため、クマが出現すると農村地域では、20センチ幅で3段、計60センチとなる電気柵を田んぼや畑の周りに設置して撃退する。クマは鉄の柵ですと壊したり、登ったりしてしまう。唯一クマに対して効果的と言われているのが、電気柵。これの設置方法は、実践訓練でしか学べません」(同)

国からのクマ対策交付金の給付を秋田県としては、どのように受けとめているのか。

「秋田県としても高齢化などの影響もあり、財政状況は非常に厳しい。市町村の職員へとクマ対策を教える座学講座と実践講座の開催にも、外部講師を県外から招いたりと、年間で800万円ほどの予算が掛かります。国からの交付金を活用し、毎年継続的にクマ対策講座を開催し、市民の安全を守れればと思います」(同)

国も本腰を入れて取り組み始めたクマ対策。人間とクマの戦いは始まったばかりなのかもしれない。

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