【社説】円安加速 暮らし守る政策が急務だ

 歴史的な円安に歯止めがかからない。きのうニューヨーク外国為替市場で1ドル=158円台にまで値下がりした。実に34年ぶりの水準である。

 円安は石油や食料などの輸入コストを押し上げる。ただでさえ物価高に賃上げが追い付かず、圧迫されている家計には手痛い追い打ちだ。

 政府・日銀は手をこまねいているようだが、無策のまま放置して良い段階ではない。

 国民の暮らしを痛めつける過度な円安を和らげることが急務だ。一時しのぎとしても政府は円買い為替介入を急ぐ時ではないか。同時に日銀と足並みをそろえ、中長期的な手だても尽くす必要がある。

 円安の背景には、日米の政策金利差がある。米国の5・25~5・5%に対し、日本ではマイナス金利を解除した後も0~0・1%と低い。運用に有利なドルを買い、円を売る動きが、34年ぶりの水準を招いた。

 政府は2022年秋、計9兆円にも及ぶ円買いドル売りの為替介入に踏み切った。140円台への突入を受けての措置だった。

 円安の水準では今回の方がはるかに深刻だ。だが、鈴木俊一財務相は介入をにおわすけん制を繰り返すばかり。市場にも見透かされているようだ。口先だけで乗り切れない局面と自覚し、速やかな円買いで是正せねばなるまい。

 物価高を巡る、日銀の植田和男総裁の認識にも違和感を覚える。おととい、急速な円安について「基調的な物価上昇率に対して大きな影響は与えていない」と発言。影響は無視できる範囲だとした。

 データと大所的な視点に基づいた、学者出身者らしい見方なのだろうか。消費者の心情とは隔たりがある。

 何しろ実質賃金は最新の2月まで23カ月連続でマイナスだ。今年の春闘では、大企業を中心に大幅なベアが実現したが、中堅・中小企業までは十分に波及していない。

 稼ぎが増えても物価高で消える。米国産牛肉の値上がりが象徴的だ。財布を出すたびに、円安の負の側面を連想する国民も多かろう。

 政府の円買い介入は、本質的な解決策とはなり得まい。「一時しのぎ」と見る経済関係者は多い。為替を動かすための金融政策は、国際的には「禁じ手」でもある。

 しかし、政府が何より優先すべきなのは国民の生活だ。年金生活者や困窮する人たちは物価高で大きな影響を受ける。暮らしを守るための政策をためらうべきではない。

 政府は家庭の電気・ガス代を抑えるために支給している補助金を、5月使用分までで終える方針でいる。円安の進行や世帯年収などによっては延長するのも一考だろう。

 日銀も国民生活を圧迫する物価高をこのまま放置するならば、「物価の番人」とは呼べまい。追加利上げのタイミングも含め、中長期的な対策を模索してほしい。

 円安で輸出や観光産業が潤うのは歓迎だ。だが、その陰で家庭や中小企業が苦しむ状況は改めねばならない。政府・日銀は国民目線を忘れずに円安と向き合う必要がある。

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