マダニに刺されると肉が食べられなくなる?! 原因は人間にない「アルファギャル」

マダニは家の中で発生するツメダニやイエダニと違い、イノシシやシカといった野生動物にくっついています。森林や草地にもいて、静岡県内では、茶摘みの時期にマダニが繁殖のため活発に動くことから、茶農家がマダニに刺される被害に遭うことが多いとされます。

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マダニによる一番怖い被害は、日本紅斑熱やSFTS=重症熱性血小板減少症候群への感染です。静岡県内でも4月22日には60代女性が、26日には50代女性が日本紅斑熱に感染したこと発表されています。

マダニが媒介する病原体に人が感染すると、発熱などの症状が出て、最悪の場合、死に至ることもあります。2024年3月にはSFTSの人から人への感染も国内で初めて確認されました。

まさかの「肉アレルギー」に

これらは、とても危険で気をつけないといけない病気で、マダニに刺され、発熱や発疹があったら、早めに病院を受診する必要がありますが、その感染の「頻度」は、実は、それほど高くはありません。静岡県内では、日本紅斑熱は2000年から2023年までの24年間で、53の感染例があり、うち死者が7人。SFTSは、静岡県内では3年前に初めて見つかって以来、13の感染例があって、亡くなった方はいません。それぞれの病気が年間10例以下にとどまるのは、人を刺したマダニが病原ウイルスや菌を持っている確率がさほど高くないからです。

むしろ、マダニに刺されたことによる健康被害で、より多くの人に起きているのではないかと近年考えられ始めたのが「肉アレルギー」です。マダニに刺されると、「肉アレルギー」になる、というのは、一体どういうことなのでしょうか。

地球上の多くの生物が持っている糖の一種「α‐Gal」(アルファギャル)。これが多くのマダニの唾液や消化管に存在します。ところが、人間はこのα‐Galを持っていません。マダニに刺されて、体内に存在しないα‐Galが入ってくると、人はこれを敵と感知し、抗体を作ると考えられています。

一方で、α‐Galは、哺乳類のほとんどが持っている物質です。持っていないのは、人間や一部のサルだけ。マダニにかまれて、α‐Gal抗体を持った人間が、α‐Gal成分を含む牛や豚、羊、さらには、鹿や馬などの肉を食べると「マダニを撃退する」ための免疫反応が出て、その結果、自分の体をやっつけてしまい、じんましんや下痢、腹痛、ひどい場合には、呼吸困難に陥ってしまいます。

ポイントは「哺乳類」というところで、同じタンパク源でも、鶏や魚はα‐Galを持っていないので、基本的にはこのアレルギーにはなりません(ただし、カレイの卵でアレルギーが出ることが知られています)。一方、鮮魚店で扱っているものでも鯨やイルカは哺乳類ですから、α‐Galアレルギーになりうるのです。

「マダニにさされたら即、病院」のワケ

これまで、茶農家の被害も数多く診察した磐田市立総合病院皮膚科の橋爪秀夫医師は「不調の原因が肉のアレルギーだということは、なかなか患者本人でも気づきにくい」と話します。「一般的な食物アレルギーだと、食事から2時間以内に症状が出るのに、マダニによる肉アレルギーでは2~6時間経ってから。これは肉の脂の吸収が徐々にであるためと考えられています。だから、原因特定にたどりつきにくい(橋爪医師)」のです。例えば、夜に症状が出ても、原因は夕食ではなく、昼食かもしれません。

では、マダニに刺されたらどうすればいいのか。橋爪医師は「マダニを自分でつまんで取ると、α‐Gal成分を、自ら体内に注入してしまう結果になる危険性がある。専用器具で取り除くので、マダニが皮膚についたまま医療機関を受診してほしい」と呼びかけています。(SBSアナウンサー 野路毅彦)

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