運転中のスマホ使用「厳罰化」も事故“増加”のなぜ…「法改正の周知不足」では済まない“根本的な原因”とは

ながら運転の“罰則強化”を知らないドライバーもいる?(プラナ / PIXTA)

自動車の運転中にスマートフォンなどを使用するいわゆる“ながら運転”が原因で起きた死亡・重傷事故が、昨年、過去最多件数を更新したことが警察庁の発表でわかった。

“ながら運転”は、2019年12月に道路交通法が改正され罰則が強化された経緯がある。2020年に事故件数が減ったものの、以来3年連続で増加している。

ちなみに昨年、死亡・重傷事故を起こした運転者がスマホ等を使っていた目的では、約9割がネットやSNS、ゲームなど画面の注視、残りの約1割が通話だった。

罰則強化も減らない“ながら運転”

罰則が強化されたのに、なぜ“ながら運転”による事故は減らないのだろうか。

これまで200件以上の交通事故に対応してきた伊藤雄亮弁護士は、行政による周知徹底が行き届いていない可能性を指摘し、「罰則が強化されたことが、もっとちゃんと周知されれば事故が減る可能性はあると思います」と話す。

しかしその一方で、「周知されなければ罰則強化を知らないというドライバーがいること自体も問題だと思います」とドライバーの“意識”にも釘をさす。

改正道路交通法では、それまで「5万円以下の罰金」だった“ながら運転”に対する刑事罰が、「6か月以下の懲役または10万円以下の罰金」へと厳罰化。

行政処分の反則金も6000円から18000円へと増額された(いずれも普通車の場合)。

さらに、“ながら運転”によって事故を起こせば、反則金制度の対象外となり、すべて罰則が科せられる。これによって、物損事故であっても前科がつくことになった。

「ながら運転の事故はスマホ等の普及に従って増えているところがあるので、ドライバーの運転モラルが近年になって低下したとは言えません。ただ個人的には、運転モラルが低いからこそ、“罰則強化”をしても、周知しなければさらに事故が増えるという問題が生じるのではないかと思います」(伊藤弁護士)

交通事故は刑罰が軽すぎる

また伊藤弁護士は、あくまで個人的な私見だと前置きした上で、「悪質な“ながら運転”や、ひき逃げ事件などでも実刑判決がなかなか出ない」という交通事故の刑事裁判の現状も、事故が減らない要因のひとつではないかと考えている。

「もちろん私も交通事故をなんでもかんでも厳罰化すれば、事故が減るから良いだろうとは思っていません。ですが、現状はさすがに目に余るような悪質な運転態様に対しても執行猶予がつくなど、判決が軽すぎると感じます」

たとえば、“ながら運転”が原因の事故により小学4年生(当時)の女子生徒が意識不明になった事故の裁判で、裁判所は運転していた加害者側に禁錮2年6か月、執行猶予4年の判決を言い渡した。

「前科がなければ、死亡事故であっても執行猶予がつくケースは多く、悪質な事故態様でも同様です」(伊藤弁護士)

一方で、伊藤弁護士が担当した裁判では、検察が調べたスマホの操作履歴が“ながら運転”の重要な証拠となり、加害者に実刑判決が下ったケースもあったとして、事故発生時の警察・検察の対応が事故減少の肝になり得ると話す。

「スマホの操作履歴等の調査は手間もかかるのだろうと思いますが、判決に影響を及ぼす証拠になります。“ながら運転”が疑われる交通事故の時はスマホの操作履歴の調査が行われることが通例になれば、“ながら運転”の抑止力になると思いますので、警察・検察にはぜひ徹底して行っていただきたいですね」

渋滞中の「ながら」に要注意

毎年各地の高速道路等で渋滞が発生するゴールデンウイーク。渋滞から抜け出せず、ふとスマホをチェックしてしまう場面もあるのではないか。

伊藤弁護士はこうした渋滞時のスマホチェックも「危険」ときっぱり言い切った上で、ドライバーに向けて注意を促した。

「私の元には“ながら運転”による悲惨な事故のご遺族や、重い後遺障害が残ったご本人・ご家族が相談に来られることもあります。

法律上、 “ながら運転”での事故は『不注意による過失』という扱いになりますが、純粋な“不注意”というより“意図的”にスマホ等を見た結果発生する事故。つまり、運転中にスマホ等を見なければ起こらない事故です。予防は極めて簡単なはずです。自分が加害者にならないためにはどうすればよいか考えて、安全に車の運転をしていただきたいと思います」

© 弁護士JP株式会社