ライバルの存在(4月28日)

 今季限りで現役引退するサッカーの長谷部誠選手は、強いリーダーシップが持ち味だ。13年前の著書「心を整える。」(幻冬舎)には、27歳とは思えないほど多くの金言を記した。〈競争は、自分の栄養になる〉もその一つ。競争を人が成長するための栄養になぞらえた▼羽田空港で1月、日本航空と海上保安庁の航空機が衝突した事故には裏話がある。近くにいた全日空のスタッフも乗客の避難誘導に奔走した。「どこの会社のお客さまかは関係ない」と。空の旅で競う大手2社の社員は垣根を越え、日本の航空史の危機に直面して大きな力を発揮した▼160年前の米国。リンカーン大統領は、共和党の候補指名争いを演じた3人を重要閣僚に登用した。南北戦争に勝利し、国内を再統一。奴隷制度を廃し、歴史に名を刻んだ。政権は「チーム・オブ・ライバルズ」と称され、評伝の題名にもなった▼ライバルの和訳は「競争相手」や「好敵手」。英語では「宿敵」の意味合いが強い。どちらにしろ、眼前に立ちはだかる。競い合い、時に助け合う。そんな相手が常にいるなら、実に素晴らしい。元日本代表主将の言葉は不惑を迎えてなお、幅広い世代の心を整える。<2024.4・28>

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