【霞む最終処分】(38)第6部 リーダーシップ 識者 国民との対話が重要 民意に沿った動機づけを

 東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の福島県外最終処分は、法定期限の2045年3月まで21年を切った。政府は除染で出た土壌を公共工事などに再生利用し、処分量を減らしたい考えだ。ただ、関東地方で計画された実証事業は住民らの反発を受けて実施には至っていない。環境省は対話フォーラムや中間貯蔵施設(福島県大熊町、双葉町)の現地見学会といった理解醸成の取り組みを続けているが、国民の関心は高まっていない。

 除染廃棄物の問題に詳しい北海道大大学院工学研究院教授の佐藤努は「実証事業の実施を前提として話を進めるやり方では、多くの国民が反発する。対話を通して議論を深めるべきだ」と述べ、政府と国民が膝詰めで語り合う場の必要性を指摘する。対話フォーラムで再生利用への関心や理解を深めた参加者との関係を一過性にしないよう「同じ地域で集会を継続して開くことも一つの方法だ」と提案する。

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 復興相の土屋品子は3月の衆院東日本大震災復興特別委員会で、除染土壌の再生利用を全国で効果的に進めるため、政府全体でインセンティブ(動機づけ)の導入を検討する考えを示した。佐藤は「再生利用を進める上で、何らかの動機づけが必要なことは政治家や専門家の共通認識だ」と見解を述べる。

 国から地方へのインセンティブは、自治体に廃棄物処理施設などいわゆる「迷惑施設」を受け入れてもらう代わりに交付金などを優遇的に拠出するのが一般的だ。ただ、「見返り」を得る自治体は新たな財源を確保できる一方、世間から「金になびいた」などと取られかねない側面がある。

 佐藤は「金を出す手法だけでは理解を得にくくなっている。政府は国民と対話を重ねて多様な意見に触れ、さまざまな選択肢を示すべきだ」とし、交付金以外の動機づけの例にインフラ整備を挙げる。例えば「ここに道路があれば、地域が活性化する」といった住民の声を吸い上げ、建設資材の一部に除染土壌を用いる仕組みを整えれば、再生利用を進めながら住民の要望に応えられる。「人々の発想を重んじる姿勢が大切」と説明する。

 佐藤は温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」政策との組み合わせも、今後は十分、選択肢の一つとなり得るとみる。政府は2050年までの実現を見据え、二酸化炭素(CO2)排出量の削減効果をクレジット(排出権)として発行し、企業間で取引できるようにした。

 除染土壌の再生利用により、最終処分に向けた土壌の分別・焼却・処理などで発生するCO2の量を抑えられる。佐藤は再生利用を受け入れた自治体に、削減できたCO2に相当する排出権を与える仕組みを提案。「実現すれば、CO2を削減できない自治体は除染土壌を受け入れることで環境問題に貢献できる」と利点を示す。

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 環境省による再生利用の実証事業では、放射性物質の濃度が比較的低い除染土壌を芝生の造成などに使う。現地の空間放射線量、大気や浸透水に含まれる放射性物質濃度を測り、科学的な安全性を確かめる。

 佐藤は「除染土壌の安全性を示すために実証事業は欠かせない」と事業の意義を念押しし、都道府県や市区町村の長が担うべき役割の大きさを強調する。「住民が描く地域の未来図を自治体も共有すべきだ。首長には住民の声を集約し、国に伝えるリーダーシップを発揮してほしい」と訴えた。(敬称略)

 =第6部「リーダーシップ」は終わります=

 さとう・つとむ 新潟県糸魚川市出身。早稲田大大学院理工学研究科博士課程修了。日本原子力研究所研究員、金沢大理学部助教授などを歴任し、2011(平成23)年4月から現職。除染土壌の再生利用と最終処分に向けた環境省の「地域の社会的受容性の確保方策等検討ワーキンググループ」座長を務める。専門は環境鉱物学。59歳。

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