自称“変態アーティスト” その答えは「畑」にあった…農家で絵描き、元陸上選手・元県職員 “異色の経歴”女性アーティストに迫る

島根県出雲市に、農家をしながら不思議なアートを制作する女性がいます。制作のキーワードは、『変態』。
女性の感性もその作品も独特ですが、この『変態』の意味とは?

島根県庁の地下にあるスペース。
火曜日のお昼になると、ここで新鮮な野菜が売られいます。
この日、並んでいたのはサラダセット。ちりめんちしゃ、フェンネルなど、聞きなれない野菜が袋いっぱいに入っています。

販売しているのは、玉木喜久代(たまき・きくよ)さん。
玉木さんは、出雲市で野菜を自家栽培しています。


「あら、大根もかわいいね~」
玉木さん
「うちのスタッフ連れてきました」

売場の片隅にあったのは、かわいらしくデコレーションされた大根。

玉木さん
「営業部長の『聖護院白子さん』です。聖護院大根です」

さらに、玉木さん、バッグにマジックで奇妙な絵も描き始めました。

玉木さんって、一体、何者?
自宅にお邪魔してみることにしました。

玉木喜久代さん
「この畑は全部、サラダに使うんですけど、これは、ロメインレタス。このまま採って食べたいくらい好きです」

玉木さんは、出雲市斐川町で、夫の幸康さんと2人で「たまちゃんアートファーム」という農園を経営。
季節ごとに様々な野菜を、農薬を使わず育てています。

玉木喜久代さん
「農薬を使わない代わりに、肉食の昆虫を使うんです」

農薬の代わりに昆虫を使う?
一体どういうことなのでしょうか?

玉木喜久代さん
「これは、カマキリの卵、とても大切にしています。もうちょっとすると、たくさんカマキリが出てくるんですけど、その子たちをまたいろんなとこに分けて葉っぱを守ってもらうようにしています」

たまちゃんアートファームには、たくさんの虫たちが。
実は、その虫たちが、玉木さんにもうひとつの顔を与えています。

なんとも奇妙な生き物たちが描かれた作品。
もうひとつの顔、作家・玉木さんが描く世界です。

たまちゃんアートファーム 玉木喜久代さん
「様々な形や色がある、動き方も。興味の種が尽きない。生き物たちを私は尊敬しているんです。そういうところから力をもらっています。」

松江市出身の玉木さんは、高校卒業後、陸上選手として実業団に入団。中距離の選手として活躍しました。
その後、21歳でUターンすると島根県職員となり、10年前まで県庁で働いていたという異色の経歴です。
そんな玉木さんが作品づくりを始めたのは、31歳のころ。

たまちゃんアートファーム 玉木喜久代さん
「本当に忙しくて、いっぱいいっぱいになった時期があって。その時に、明け方2時に目が覚めるようになって、4時くらいまで、今まで描いたことないような目玉の魚たちがどんどん、指から湧いてきて。
一生懸命、描いてた。来る日も来る日も」

それ以来、"指から湧く絵"を描き続けている玉木さん。
不思議な生き物たちを次から次へと描いていきます。

たまちゃんアートファーム 玉木喜久代さん
「積んできたものがいっぱいあって、それが新しい体験、いろんなところでいろんな人に会ったり、いろんなものを見たりすると、ひょんと出てきたり」

そんな玉木さん。自身を"変態アーティスト"といいます。
その答えが、畑にありました。

玉木喜久代さん
「私は畑がアトリエって言っているんですけど。
生物学的変態は、足がいっぱいある幼虫がサナギに入って、まったく違う形になって飛んでいく、すごい神秘ですよね。私にとって“変態”は、『自分が変わって飛んでいく、飛翔する』という意味の“変態”なんです」

成長とともに虫たちが形を変えていく「変態」。
その神秘が、玉木さんの作品を生み出していました。

生きものの多様性。命の大切さ。
玉木さんの指から湧き出る作品には、そんな思いが描かれています。
そして、そこには、玉木さん夫婦とともに生きるたくさんの生きものたちの営みが写し出されています。

たまちゃんアートファーム 玉木喜久代さん
「私、国籍に対する偏見とかまったくなくて。若いときにアフリカに行った時も、涙がでるほど懐かしかったので、『多分、ここで生まれたのかな』と思ったりもする。どこの国の国民であっても、みんな一緒。多分、虫も人間も一緒だと思っているからそう思うのかな?
分かります?」

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