地域猫を増やさないための動物愛護センターの2つの取り組み

猫のための施設「愛護棟」が完成した…。そんな話を聞きつけて、訪れたのは神奈川県の「横須賀市動物愛護センター」。地域猫や子供たちの未来を見つめて活動するじつに猫への愛を感じる場所でした。
*記事内容はすべて、2024年2月1日現在のものです。

飼い主のいない猫にも”管理”が必要

かつては収容される猫の大半が屋外で生まれた子猫で、’14年には同時に40匹の子猫がいたこともあったとか。しかし、横須賀市動物愛護センター(以下、センター)が「地域猫活動」に力を入れるようになってからは地域内で子猫がほとんど生まれなくなり、収容数も激減したそうです。

地域猫活動とは、捕獲して(T)、不妊手術し(N)、元の場所に戻して(R)、管理する(M)という「TNRM」を推進する事業。中でもカギを握るのが「M(マネジメント)」で、地域猫をお世話している住民の方に「食事は時間を決めて与え、その時間に来る猫の数を把握すること」や「周辺にトイレを設置して、糞尿被害を減らす」などの管理をお願いしているそうです。

※TRAP(捕まえる)、NEUTER(不妊手術する)、RETURN(元の場所に戻す)、MANAGEMENTの頭文字。

多頭飼育崩壊の現場から保護された2匹

さらに、管理グループを2名以上で組み、名前を登録すれば、センターに在籍する獣医師が無料で不妊手術するという支援も実施。この思いきった支援を’15年からスタートさせたのもセンター所長の高義さんでした。

「センターから譲渡する猫も、すべて不妊手術をすませています。飼い主さんを信頼しないわけではありませんが、万が一逃げ出して繁殖する可能性もありますよね。これはサービスというよりも、動物愛護を請け負う行政の責任として行っています。おかげで、職員の仕事を増やしてしまいました(笑)」

これまでもこれからも大切な2つの活動

地域猫活動に必要不可欠なのは、保護猫団体の力。そう話す高義さんは、いざ捕獲するというときに駆けつけ、地域猫として暮らせるよう手助けしてくれる団体の方々にはいつも頭が下がるそう。

「地域猫活動において、私たちの重要な仕事のひとつは市民の理解を得ることです。各町内会にチラシを配り、回覧をまわしてもらっていると、当然、協力できないという猫嫌いの住民の方もいますよね。そのときは、街の環境問題を改善する活動だと説明します。管理しながら地域で飼い、それぞれが"一代限りの生"を全うすれば街から猫はいなくなりますから」

本来はすべての猫が家庭で飼われるべきだという、高義さん。だから、最終的に目指しているのは"地域猫ゼロ"なのだとか。

所長の高義さん。ご自宅にはミルクを与えて育てた2匹の猫がいるそうですが、「猫たちは妻になついて、私には寄ってきません(笑)」

「私は’13年に所長になったときに、やりたいことが2つありました。1つは地域猫活動、もう1つは子供たちへの動物愛護教育です。動物の正しい飼い方、命の重みなどを学んだ子供が、自らの頭で考え、何か行動を起こしてくれる大人になってくれたら嬉しいですよね。また、子供は"伝道者"になることもあります。私たちの話が胸に響けば、親など周りにいる大人たちにきっと伝えてくれるはずです」

具体的な取り組みは、小学校へ出前授業に行ったり、職場体験の小学生や中学生を受け入れているそうです。

館内では動物愛護に関する資料を多数配布

「でも小学生には、あえて地域猫のことは話しません。もし道ばたで猫を見かけたら、子供たちは食べ物をあげるでしょう。その食べ物は、もしかしたらなけなしのお小遣いで買ったものかもしれません。それは大人だと"無責任な行動"となりますが、子供の場合は"無条件の優しさ"。その気持ちを否定する気にはなれません。ただ、中学生以上には、"中途半端な優しさ"はダメだよ、と伝えています」

高義さんの話に耳を傾けていると、小さな横須賀市動物愛護センターがこれからもっと大きな優しさに包まれた場所へと成長していくのではないか、そんな予感がするのでした。

引用元:撮影/後藤さくら

お話しをお伺いした人/横須賀市動物愛護センター所長 高義浩和さん
出典/「ねこのきもち」2024年4月号『ねこのために何ができるのだろうか』
撮影/後藤さくら
取材/野中ゆみ

※この記事で使用している画像は2024年4月号『ねこのために何ができるのだろうか』に掲載しているものです。

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