平井堅、「瞳をとじて」発売から20年 恋愛の生々しい“痛み”に寄り添うソングライティングの手腕

平井堅の「瞳をとじて」が、本日4月28日にリリース20周年を迎えた。同曲は2004年4月28日にリリースされた、平井堅の20枚目のシングルである。ベストセラー小説を実写化した映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)の主題歌であり、2004年度のオリコン年間シングルチャートでは1位を獲得する大ヒットとなった。

リリース以降も、絢香、Crystal Kay、柴咲コウといったアーティストにカバーされている「瞳をとじて」。この曲はなぜここまで多くの人に、そして長く愛されてきたのか。

「瞳をとじて」のテーマとなっているのは、大切な人を失った悲しみである。〈朝目覚める度に 君の抜け殻が横にいる/ぬくもりを感じた いつもの背中が冷たい〉ーー冒頭のフレーズだけでも、愛する人に二度と会えない現実を目の当たりにし、虚しさを感じる主人公の気持ちが伝わってくる。もう記憶の中でしか会えないから、瞳を閉じて思い出す。相手を忘れられない苦しさ、失っても変わらない愛おしさが、平井の切ないボーカルとともにリスナーに届けられる。

映画を観ていれば、作品と曲の内容を結びつけて考える人も多いだろう。一方で、同じように愛する人を失った経験を持つ人は、自分のことに置き換えて共感するはずだ。実際に、「瞳をとじて」のMVのコメント欄には、同じように辛い想いを抱えた際に、この曲に励まされたという声が多く見られる。

そして、忘れてはいけないのが、“愛する人との別れ”は普遍的なテーマであることだ。人間誰しも、別れの苦しみを乗り越えなくてはいけない時が必ずやってくる。聴いた当初は分からなくても、何年か経って、曲中で歌われている心情を理解できる日が来るはず。それが、この曲が20年経っても色褪せず、多くの人に愛され続けている理由なのだと思う。

平井堅は「瞳にとじて」に限らず、他にもこうした恋愛の“痛み”に寄り添う楽曲を届けてきた。たとえば、2011年にリリースされた「いとしき日々よ」。結ばれることのない相手への恋心が歌われているようであり、〈あなたに会いたくて もう一度会いたくて〉という歌詞からも切ない想いが感じられる。

2019年にリリースされた「#302」で描かれているのは、意中の相手がいる人に恋した主人公の心情だ。“代わりでもいいからそばにいたい”という気持ちは、同じような片想いのシチュエーションを経験した人なら頷けるものがあるだろう。〈ぶっきらぼうな声で部屋番号告げられ 二人きりで部屋に入る〉〈取り残された伴奏と泣き声だけが 狭い部屋に響いてた〉というカラオケボックスを舞台としたリアルな情景描写も、聴き手の想像を搔き立てられるポイントである。

また、時には恋愛における人間の毒々しい部分も描く。「哀歌 (エレジー)」(2007年)や「告白」(2012年)がその代表例だろう。「哀歌 (エレジー)」は映画『愛の流刑地』(2007年)の主題歌であり、作中で禁断の恋に溺れていくヒロインにインスパイアされて制作されたという。狂気じみたフレーズが並び、いけないと分かっていても止められない気持ちが表現されつつも、どこか美しさすら感じてしまう楽曲である。

「告白」については、平井はリリース時に「誰もが心のどこかに持つ“絶対的闇” “圧倒的絶望”をテーマに作りました」とコメントしている(※1)。〈私の中のあなたをいつも殺して生きてきた〉という冒頭の尖ったフレーズが印象的で、中毒性のあるメロディに乗せて、叶わぬ愛を求め続ける様子が歌われている。

苦しさや切なさを感じる時ほど、人は自分の想いを代弁してくれるような言葉や音楽に縋りつきたくなるもの。平井のラブソングは、こうした心の痛みを繊細に描き、浸らせてくれる。しかし、その言葉は決して美しさや切なさに収まるものではなく、恋に溺れる愚かさや醜さといった人間の暗部にも真正面から向き合い、聴いていて胸が苦しくなるほどの説得力でリスナーの心を抉ってくる。

「瞳をとじて」のラストは、〈なくしたものを 越える強さを 君がくれたから/君がくれたから〉というフレーズで締めくくられる。この一筋の光が差し込むような歌詞に救われる人も多いだろう。痛みに寄り添い、最終的には前を向かせてくれる「瞳をとじて」。何年経っても、この曲は多くの人の胸に刻まれ、明日を生きる希望となるはずだ。

※1 https://www.kenhirai.net/kokuhaku/

(文=かなざわまゆ)

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