社説:SNS投資詐欺 「なりすまし」放置許されぬ

 うまいもうけ話には要注意-と分かっていても、ついついインターネット上の巧妙な手口につられる。新たな投資詐欺被害が深刻化している。

 フェイスブック(FB)など交流サイト(SNS)で著名人になりすまし投資を誘い、金銭を詐取する事件が急増している。

 最も許し難いのは詐欺犯だが、横行する偽広告を放置してきたIT大手も責任を免れまい。広告審査の甘さや削除要請に容易に応じない姿勢に問題がある。政府は積極的な指導と併せ、欧州などの先行例も参考に法整備を急ぐべきだ。

 警察庁によると、投資詐欺は昨年7月以降、全国で多発し、昨年の被害額は約277億9千万円。昨年7月に大津市の60代男性が現金約1200万円をだまし取られるなど件数は2271件に上った。被害は年明け後も止まらず、今月24日には茨城県内の70代女性が約7億円の被害に遭ったことが分かった。

 高齢者を狙う特殊詐欺と比べると、個人投資に関心を持つ中高年に被害が広がっている。短期間に複数回口座に振り込ませ、被害が高額になる事例が目立つというから看過できない。

 警察庁は海外を拠点とするグループが関与しているとみているようだ。ネット犯罪は軽々と国境を越える。海外の捜査機関とも連携し、詐欺集団の割り出しと手口解明を急いでほしい。

 被害拡大の背景には、投資に対する社会的関心の高まりがある。新たな少額投資非課税制度(NISA)をスタートさせるなど「資産運用立国」への政府の旗振りが、犯罪を助長しているのも否めない。

 一方で国民を守る対策は十分とは言い難い。岸田文雄首相は6月をめどに総合的な犯罪対策プラン策定を目指すとしたが、遅きに失したのではないか。

 ネット上に偽の投資勧誘などが大量に拡散され、詐欺へ誘い込む温床になっている。巨額被害が相次ぐのに、SNS広告で利益を上げる運営会社側は実効性のある対策を講じていない。

 詐欺広告対策を巡り、FBやインスタグラムを運営する米IT大手メタは「産業界、専門家や関連機関との連携による社会全体でのアプローチが必要だ」との人ごとのような声明を出した。しかし、当事者としてあまりに無責任に過ぎないか。

 おととい、メタの日本法人を相手取った訴訟が起こされた。なりすまし広告の調査を怠ったとして神戸市などの被害者4人が計約2300万円の損害賠償を求め、神戸地裁に提訴した。メタの怠慢と責任回避に批判は強く、真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 詐欺の手口は悪質、巧妙化しており、うまい話には必ず「落とし穴」がある。油断すればトラブルに巻き込まれる。普段から幅広く情報を集めて知識を深め、安易な投資は慎む自衛策が求められる。

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