「ユニコーンはコロナ禍をうまいこと切り抜けられた」ユニコーン・川西幸一×直木賞作家・今村翔吾×ミステリー作家・今村昌弘のトークバトル【THE CHANGE特別鼎談】

川西幸一・今村昌弘・今村翔吾

人気ロックバンド、ユニコーンの川西幸一と、2022年に『塞王の楯』で直木賞を受賞し、コメンテーター、書店経営者などの顔も持つ作家の今村翔吾。毎年恒例となった2人のトークイベントに、デビュー作『屍人荘の殺人』がいきなりの大ヒットを飛ばし、本格ミステリー界の寵児となった今村昌弘が加わった。レジェンド級のミュージシャンと人気作家2人によるトークバトルは、音楽業界と作家業界が共通に抱える問題点などにも及び、白熱したものになった。【第8回/全8回】

※TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISEで2024年2月10日(土)に開催の「Artistと本vol.3」より

イベント終了後、楽屋にてお三方に改めて感想を聞いた。

―――お疲れさまでした! 昌弘先生と川西さんは初対面でしたが、いかがでしたか。

今村昌弘(以下昌弘)「本格ミステリーの作家というのは、自分たちが書くものは決まっているから、世間の話題には振り回されないっていう感じなんです。川西さんは、それに輪をかけて、昔からやっていることは一緒だという強い芯がおありだなと。お話を伺って刺激になりました。こういう年の取り方をしたいと思いましたね」

―――昌弘先生はユニコーン世代より少し下ですよね。

昌弘「でも、関西にいる作家たちとカラオケに行くと『大迷惑』を歌ったりしますよ。僕らは出版社の編集者との付き合いの中で、作品をひねり出したり、売り上げを気にしながらやっていくんですけど、川西さんは自分の腕の見せ所がライブにあるというのが少し羨ましいですよね」

―――それにしても、昌弘先生のお話がすごく面白くてびっくりしました。

昌弘「ほんとうですか。ありがとうございます」

今村翔吾(以下翔吾)「作家には寡黙でしゃべりが全然ダメって人がいるもんね」

川西幸一(以下川西)「ミュージシャンでも、ライブ中にひとこともしゃべらない人がいるよ。淡々と楽器を弾いてるだけっていう。でも、そういう人が1年に1回くらい、ボソっと“こんにちは”とか言うと、“○○さんがしゃべった!”ってすごく盛り上がるんだよね(笑)」

ホントに[今村コーナー]を作ってくれた書店さんがあった

昌弘「僕は大学時代はチームスポーツをやっていて、そういうのとは違う、自分ひとりだけでできることをやってみたいなと思って小説を書き始めたんですけど、音楽って、メンバーがいないと成立しない部分もありますよね」

川西「民生はソロもやってるでしょ。よく“いや~、ユニコーンは楽だわ~”って言ってる。ソロは作品を書くのもひとりで、責任も負うし、悩んだときなんかは、バンドならみんなであれこれ言って“いいか、オレは”ってできるけど、ソロだとそうはいかないし、大変だと思うよ」

―――翔吾先生が昨年のイベントで「もうひとり入れて3人でやりたい」というアイデアを披露して、ついに実現しましたね。

翔吾「僕らや今村夏子さんがデビューするまで、作家に“今村姓”ってほぼいなかったんですよ、別に珍しい名字でもないのに。夏子さんがデビューした5年後くらいに僕らがデビューして、急に“今村”が増えだしたんだよね」

昌弘「最初に翔吾さんと会ったときに“夏子さんと我々とで[今村コーナー]作ってくれへんかな”って言ってましたよね」

翔吾「そしたらホントに作ってくれた書店さんがあった(笑)。実は作家としてデビューして、7年経っても生き残ってるっていうのがスゴイんですよ。僕らの同期は7割くらいは消えたんじゃないかな。残ってる同期同士で、お互いに頑張らなアカンな、みたいなところはあるよね」

―――川西さんは昌弘先生の本も全部お読みになったそうで。

昌弘「ありがとうございます」

川西「ほんとはもっと読みたいんだけどね」

―――でも、まさかゾンビが推理小説に出てくるとは思わなかったです。

昌弘「新しいトリックを考えようとしても、出尽くしてるから、思いつかないんですよ。壁の代わりになるもので周りを囲まないとしゃーない、そのときに浮かんだのがゾンビだったんです」

―――そのゾンビが出てくる部分が、コロナ禍の状況を表しているような感じがしました。なんだか予言めいてますよね。

昌弘「映画が公開されたのがコロナ禍の直前だったんですよ。2019年の12月から公開されて、2月の頭くらいまで上映してたのかな。もうギリギリでした。もしかしたら、人に感染して殺人事件が起こるという内容が、タイミングによっては不謹慎だとなっていたかもしれないですね」

ユニコーンはコロナ禍をうまいこと切り抜けられた

翔吾「コロナの影響はデカかったよなあ。川西さんもライブなんて全然できなかったですよね」

川西「でも、ユニコーンはうまいこと影響を避けられたんだよね。2019年の末にツアーが終わって、2020年はどっちにしろ1年間休もうって話だったの。その翌年にレコーディングを始めたのかな。マスクは付けてとか制限はあったけど、ライブをやるのはOKになってたから、2021年にツアーをやったんだよね。結局、ユニコーンで中止になったライブっていうのは、山形の“やまぎん県民ホール”が新しくできて、こけら落とし公演を僕らがやるはずだったのが流れた、それだけだった。そういうコロナの波みたいなのを、うまいこと避けてやれてたんだよね」

翔吾「僕は、コロナ禍のせいで、賞をとっても、授賞式が全部なくなったんです。吉川英治文学新人賞、山田風太郎賞、それから直木賞もなんにもナシ。でも、負け惜しみじゃないけど、それがよかったんじゃないかって思うんですね。僕はいっぱい書いて磨いていくタイプだから、パーティとかにうつつを抜かさずに済んだ。昌弘さんは寝かして寝かしてボン、だけど、僕はとにかく稼働して、書いて書いてだから。作品に向かう時間が持てたことはよかったと思うよ。あちこちから声がかかって、執筆の時間がなくなってたらと思うとね。まあでも、賞を獲った実感がないんだよ。よく聞くでしょ、高級ホテルのローストビーフがとか、お寿司が、とか」

昌弘「選考委員の先生たちと三次会まで行く、みたいな」

翔吾「そういうのがまったくない」

―――川西さんは、よく小説を読みながら、どんな人が書いたのかを想像するとおっしゃっていますが、実際に昌弘先生とお会いしてみて、いかがでしたか。

昌弘「どんな人を思い浮かべてたんですか(笑)」

川西「作品の登場人物の性格って、やっぱり書く人の性格も出てくると思うんだよね。昌弘さんの作品のいいところって、トリックはもちろんあるんだけど、そうじゃないところ、ベースに恋愛とか、人との付き合いとかがあるから面白い。翔吾君の作品にも性格が出てるよね」

―――川西さんも昌弘先生の新刊を楽しみにしているようですが、次作の予定などは。

昌弘「明智恭介シリーズの短編がようやくまとまったので、6月ごろに単行本になる予定です。予定通りいけば、ですけど」

翔吾「書けへんかったら書けへんかったで、文字を大きくしてもらったりしたらどうにかなるやろ(笑)」

昌弘「そうなったら、翔吾さんの言う通りに、本に血しぶきをブワーっと垂らしましょうか(笑)」

■川西幸一(かわにし・こういち)
1959年広島県生まれ、広島県在住。ロックバンド「ユニコーン」のドラマーとして1987年にデビュー。「大迷惑」「働く男」などのヒット曲をリリースする。1993年2月にユニコーンを脱退し、バンドは同年9月に解散。2009年にユニコーンが再始動。最新アルバムは「クロスロード」。時代小説の大ファンとしても知られ、年間百冊近くを読破する。

■今村翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ、滋賀県在住。2017年に発表したデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。『童の神』で第160回直木賞候補、第10回山田風太郎賞候補。『八本目の槍』で「週刊朝日」歴史・時代小説ベストテン第1位、第41回吉川英治文学新人賞を受賞。『じんかん』で第163回直木賞候補、第11回山田風太郎賞受賞。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。最新作は『戦国武将伝(東日本編・西日本編)』(PHP研究所)。

■今村昌弘(いまむら・まさひろ)
1985年長崎県生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、放射線技師として働きながら小説を書き、2017年『屍人荘の殺人』で第27回九鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。同作は「このミステリーがすごい」で1位を獲得し、神木隆之介、浜辺美波の主演により映画化された。ほかに『魔眼の匣の殺人』、『兇人邸の殺人』、『ネメシスI』。最新作は『でぃすぺる』(文芸春秋)。

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