連載『lit!』第99回:日向坂46、FRUITS ZIPPER、22/7……シーン牽引するアイドルグループの新譜5選

今回連載『lit!』で取り上げる5枚の新譜はどれも個性的なだけではなく、シーンを牽引する普遍性を兼ね備えているものばかり。アイドルにとって目指すべき目標であり、ファンにとっても1年の集大成とも言える夏フェスやイベントに向けて、この時期は多くのアイドルが新譜を発表しており、また新年一発目の作品も多いことからどの陣営も気合が入っている印象だ。メジャーアイドルからライブアイドルまで、数多くのラインナップからシーンを牽引するアイドルグループの新譜をピックアップした。

今年でデビューから5周年を迎えた日向坂46が、新センターに四期生の正源司陽子を抜擢してリリースした11thシングル『君はハニーデュー』。表題曲の制作陣には、「キュン」や「ドレミソラシド」といった日向坂46を代表する楽曲を手がけた野村陽一郎を起用した。耳馴染みのよい軽やかなサウンドはいかにも日向坂46らしい中毒性がある。歌詞は〈イチゴ バナナ オレンジにマンゴー アップル グレープフルーツ マスカット〉といった遊び心を感じさせるパートが目立つが、“君=メロン”に例えながら〈世界中にメロンはあるのに特別な存在〉と「たとえありふれた存在であっても君は特別だ」という普遍的なメッセージを届けている。正源司のフレッシュなパフォーマンスも相まって、日向坂46の新たな代表曲になりそうな予感がする。

■日向坂46『錆つかない剣を持て!』

本作から取り入れられたアンダー楽曲「錆つかない剣を持て!」もかなりの意欲作となっており、中華風のサウンドに合わせてチャイナ服のような衣装で優雅に踊るメンバーの姿に惹きつけられる。これまでにありそうでなかったテンポの曲調で、ライブのセットリストに華を添えてくれそう。7月には『11th Single ひなた坂46 LIVE』も控えており、彼女たちのフォーメーションダンスにも注目したい。

■FRUITS ZIPPER「NEW KAWAII」

4月から初の地上波レギュラー番組『マユリカとおねだりフルーツジッパー』(テレビ朝日系)とラジオ番組『FRUITS ZIPPERのラジッパー!』(ニッポン放送)が放送されるなど、ライブアイドルシーンのトップランナーとして駆け抜けているFRUITS ZIPPERが、1stアルバム『NEW KAWAII』をリリースした。

現在のアイドルシーンはK-POPの台頭もあり、方向性を模索しているようなグループも一部見受けられるが、日本的アイドルポップスの正解を導き出してくれたのがこのFRUITS ZIPPERだ。その主たるものがTikTokでバズったのが記憶に新しい「わたしの一番かわいいところ」。同曲はカラフルな世界観でかわいいに全振りし、アソビシステムらしい原宿カルチャーを前に押し出した楽曲。最新アルバムリード曲「NEW KAWAII」も原宿カルチャーが取り入れられており、FRUITS ZIPPERの持つかわいさが引き出されている。新時代のアイドル像を提示してくれているアルバムだ。

■22/7『後でわかること』

22/7が前作『僕は今夜、出て行く』以来、約1年ぶりとなる12thシングル『後でわかること』をリリース。乃木坂46の「深読み」や≒JOYの「その先はイグザルト」を手がけてきた高木龍一による類まれなポップスセンスが発揮されており、22/7の歌唱力、ダンスパフォーマンスも相まって芸術作品のような素晴らしい一曲に仕上がっている。これまで人間の精神性を力強く歌ってきた22/7が、本作では水族館のガラス窓(外の世界)からかつての自分たちを俯瞰して歌っているのも興味深い。

茨城県東茨城郡大洗町の「アクアワールド茨城県大洗水族館」にて撮影されたdance videoの幻想的な雰囲気の中で、美しいなフォーメーションダンスを見せるメンバーにも注目だ。共通カップリング曲には、22/7らしい意志の強さを等身大の思いに乗せて歌うメッセージソング「春雷の頃」を収録。楽曲ごとに異なる表情を見せる22/7の進化は止まらない。

■Jams Collection『冬空ラプソディー / トキメキ NEW WORLD』

11月に日本武道館公演が決定し勢いに乗るJams Collectionが、2024年1発目のシングルとしてリリースしたのは両A面シングル『冬空ラプソディー / トキメキ NEW WORLD』。「冬空ラプソディー」は、Jams Collectionにとって「Shooting Star」以来となる久しぶりの冬ソングに。〈つまり最終的な恋は/君で最後にしたいんだって、願う〉といった歌詞は、少し切なさを感じさせるが、まっすぐに歌うメンバーのまなざしは力強く大人びている。

それに対して「トキメキ NEW WORLD」はアイドルポップスとしては王道でありながら、8人が織りなすグルーヴ感は唯一無二。加えて、小此木流花の〈「あ~もう、嫌な夢だった!」〉のようなセリフパートも取り入れられており、ライブでもファンと一体となって楽しめるのが嬉しい。Jams Collectionの楽曲はどれもAKB48グループを想起させるキャッチーさと、メンバーの多彩な個性が聴き手を惹きつける魅力になっている。毎ステージごとに、進化を続けるJams Collectionの将来が楽しみだ。

■アンスリューム『恋のお注射』

「興奮と昂揚をアナタに。」をコンセプトに、個性的なメンバーが幅広い楽曲を武器にライブパフォーマンスを創り上げるアンスリューム。2023年に伊藤詩乃、2024年に朝日奈まみ、紫音にーなという強力なメンバーが加入し、新体制で再スタートを切った。新体制初となるシングル『恋のお注射』の表題曲は“あざとかわいさ”全開のナンバーとなっており、振り付けにはキャッチーな“お注射ダンス”も取り入れられている。アンスリュームといえば、メンバーの個性がぶつかり合うパフォーマンスが魅力的だが、本作ではナース服を身にまとったメンバーたちのキュートな表情や仕草も見どころのひとつ。ラジオ番組のハックをテーマにした、ライブで盛り上がること間違いなしの「でんぱはっく・れでぃお」、アンスリューム初の冬をテーマにしたラブソング「Win!うぃんたー!」も必聴だ。

(文=川崎龍也)

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