『アンチヒーロー』“明墨”長谷川博己の本心とは? サイコパスのような知能犯ぶりに騒然

『アンチヒーロー』(TBS系)第3話では、赤峰(北村匠海)が過去に担当した事件の秘密が明らかになった(※以下、ネタバレを含むためご注意ください)。

明墨(長谷川博己)と赤峰は富田正一郎(田島亮)の弁護を担当した。正一郎はクラブで居合わせた客の工藤(宮尾俊太郎)に怪我をさせた傷害事件の被告人だった。被害者の供述のほかに、正一郎と工藤は過去にトラブルになっており、当日も二人が激しく言い争っていたという証言が得られている。具体的な供述をもとに犯罪の事実を明らかにする検察官の緑川(木村佳乃)に対して、明墨は冒頭陳述で犯行時刻より前に正一郎が友人の木田(水野勝)の車で現場から立ち去っており、正一郎は無罪であると主張した。

明墨たちは、工藤が粗暴な性格で周囲の反感を買っていることから、工藤の証言の信用性を崩す方針を立てる。明墨が緋山(岩田剛典)を無罪にしたことに釈然としない赤峰は、現場へ足を運び真犯人を突き止めようとする。法廷で明墨は犯行時の状況を再現した映像を見せて、工藤の供述を覆していくが、同僚弁護士の赤峰と紫ノ宮(堀田真由)はそれを知らされていなかった。

正一郎の父は国会議員の富田誠司(山崎銀之丞)だった。明墨がクラブの店長を買収し、ドライブレコーダーの映像を隠したと疑う赤峰は、明墨に詰め寄るが明墨は否定する。赤峰がこの事件にこだわるのは理由があった。前にいた事務所で赤峰は正一郎の傷害事件を担当したが、正一郎の友人である松永(細田善彦)が身代わりで有罪になった。その時、裏で動いたのが富田だった。

ぼろぼろになった赤峰のノートに書かれていたのは、正一郎と松永の事件だった。話を聞いた明墨は赤峰の妄想と一蹴し、松永の有罪は弁護人である赤峰の責任であると断じる。「君がいくら後悔したところで、彼が犯罪者となった事実は消えることがないんだ」と明墨は言い、赤峰に事件を降りてもかまわないと告げた。

刑事弁護人は、依頼人である被告人のために全力を尽くす。それによって死刑が無期懲役になり、懲役に執行猶予がつく。力及ばず、前科を背負わせてしまうこともある。明墨が言うように、弁護は人の一生を左右する責任重大な仕事であり、弁護士は職務規程によって遵守すべき行動規範が定められている。依頼人の違法な行為を助長してはならず、そうなった場合には信頼関係が失われたとして辞任することができる。

明墨という人間の底知れなさに震えた。赤峰は松永の事件を再審に持ち込むため明墨の事務所に入った。敵である正一郎の担当弁護士から手法を盗もうとする大胆な考えだ。明墨はそのことを承知し、あえて赤峰に正一郎の事件を担当させた。

明墨の活動は、当初は正一郎を無罪にすることが目標だったが、赤峰が犯行当日のドライブレコーダーの映像にたどり着いたことを知ってからは、正一郎が有罪になる事態に備えたと思われる。明墨が赤峰たちに見せた映像は犯行が行われる前の時点で、緑川が法廷で示した映像は犯行後の時刻だった。明墨は映像の時刻を改ざんしたことになる。それだけではない。明墨に証拠隠滅をほのめかされた富田は、秘書をトラックを所有する企業に向かわせたが、これは罠だった。隠ぺいの証拠をつかんだ検察は、正一郎の有罪に加えて、富田を権力の座から引きずり下ろすことに成功した。

法廷で何も知らなかったと主張する明墨の見え透いた芝居に、赤峰や紫ノ宮は唖然とする。明墨は辞任するタイミングを測っており、不利な形勢を悟って、隠ぺいの事実を富田たちに押し付けたように見える。同時に赤峰の目的達成を手助けした。依頼人を守るためならどんな手も使うが、自らに危険が及ぶことはしない。狡猾な知能犯ぶりはサイコパスのようだが、そうまでして守ろうとするものは何なのか。迷宮のように入り組んだ向こう側に明墨の本心はある。
(文=石河コウヘイ)

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