塩野瑛久、初大河「光る君へ」で龍笛に苦戦 「吹けば吹くほど音が出なくなる」

龍笛を奏でる一条天皇(塩野瑛久) - (C)NHK

吉高由里子が紫式部(まひろ)役で主演を務める大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合・日曜午後8時~ほか)で、66代一条天皇を演じる塩野瑛久(しおの・あきひさ)。念願かなっての大河初出演となった本作で帝を演じるなかで管楽器・龍笛に挑んだ感想や、苦戦したという平安時代特有のセリフ回しなど、撮影の裏側を語った。

大河ドラマ第63作となる本作は、平安中期の貴族社会を舞台に、のちに1,000年の時を超えるベストセラーとなる「源氏物語」を生み出した紫式部の生涯を、「源氏物語」の主人公・光源氏のモデルとも言われ、平安貴族社会の最高権力者となる藤原道長(柄本佑)との関係を交えて描く。

スーパー戦隊シリーズ「獣電戦隊キョウリュウジャー」の立風館ソウジ/キョウリュウグリーン役で注目を浴び、近年も「探偵が早すぎる~春のトリック返し祭り~」(2022)や「バツイチがモテるなんて聞いてません」「かしましめし」「天狗の台所」(共に2023)、今秋放送が控える「連続ドラマW ゴールデンカムイ -北海道刺青囚人争奪編-」などドラマ出演が相次ぐ塩野。「光る君へ」で演じるのは、道長の甥で、幼くして即位した一条天皇。塩野は、出演が決定したときの心境を「今まで何回も朝ドラや大河ドラマなどNHKさんの作品でオーディションを受けているのですが、受かったことがなかったので今回出演のお知らせを聞いた時はびっくりしました」と思い返す。

一条天皇はわずか7歳で即位。元服して20日後に道隆(井浦新)の長女・定子(高畑充希)が入内。年上の定子と固い絆を育んでいくが、のちに道長の長女・彰子(見上愛)も入内し、世継ぎをめぐる政争に巻き込まれていく。撮影前や撮影中に脚本を手掛けた大石静と会う機会もあったと言い、その際の言葉が励みになったという。「定子に対しては弟とも少し違いますけど、甘えるような。彰子に対してはややお兄さん的立ち位置で、といった大まかな方向性のお言葉をいただきました。撮影に入るまではそれ以上のことはおっしゃっていなかったのですが、リハーサルにお見えになった時にアドバイスをいただいて。すごくありがたかったです。つい最近もお会いする機会があったのですが、編集段階の映像をご覧になって“ちょっと心配してたけど全然問題ない。すごくいいじゃない!”と言っていただいて、嬉しかったですね」

帝役とあって座した状態で芝居をすることが多く、制限された動きの中で芝居をする難しさがあったという塩野。とりわけ悩んだのがセリフ回しだ。

「所作に関してはおそらく僕より皆様の方が大変なのではないかと思います。僕は自分以上に上の立場の人間がいないので、例えば、自分よりも目上の立場の人と目を合わせてはいけない、背を向けてはならないといった決まり事もありません。ただ、帝ならではの佇まい、優雅さというものがあると思うので、一条天皇だけ少し時間の流れが穏やかであるといった感じは常に意識しています。あと難しいのが、セリフ回し。平安時代のものなので、その言葉を言い慣れていない感じは出したくなくて。説得力が出るようにしなければと思っていたんですけど、あまりすらすら言うと威厳が失われてしまうし、帝であることを意識し過ぎると少しロボット的といいますが、感情が乗らない。なのでその中間を狙う意識で。天皇として座しているときと、本音の部分、品の良さと感情とを両立させるのは難しいですね」

そして、約2か月の間、毎日繰り返し練習して挑んだというのが龍笛。塩野にとって楽器の演奏自体が未経験であり、「義経」「平清盛」など多くの大河ドラマに携わってきた和楽器奏者、作曲家でドラマの雅楽指導を担当する稲葉明徳のもと励んだが、「吹こうと思えば思うほど全然音が出なくて」と苦戦を強いられた。

「あくまで個人的な感想ではあるのですが、龍笛って不思議なものでやればやるほど吹けなくなるんです。本番直前になっても音が出なくて“どうしよう!”なんていう日もありました。言葉を選ばずに申し上げると、リラックスしてほどほどにやるのがちょうどいいといいますか。みっちり練習、稽古っていうよりは、とりあえず自分の目の届くところに笛を置いておいて。例えば水を飲んだ時などに目に入ったら吹いてみる。それも2、3分とか5分以内で。それを毎日繰り返していました。 もちろん指の動きなどは練習を重ねるんですけど、吹くことに関しては短い時間でやっていました。緊張、焦りなどでどんどん音が出なくなっていくので、心をはっきりと映す楽器なのかなとも思いました。一方で、ご指導いただいた稲葉先生が素晴らしい方で、先生に“説得力のある演奏をなさっている”と言っていただいたおかげで自信がついて、徐々に上達できた感じです。何より、実際に僕が演奏した音も使ってくださったのが嬉しいですね」

もうラブラブ!高畑充希演じる定子と……

共演者の中では、特に定子役の高畑充希とのシーンが多いというが、その高畑とは2014年に放送されたドラマ「あすなろ三三七拍子」以来の共演。憧れていた女優との再共演に嬉しさのあまり、こんなエピソードも。

「ずいぶん前に共演させていただいたときに、すごく素敵な女優さんだなと思っていて。それからも多くのドラマ、映画などを拝見していて、ある種の憧れのようなものを抱いていたので、そんな高畑さんと今回ご一緒できることが嬉しすぎて、ご本人に“好きなんです”とお伝えしました(笑)。そしたら“告白?”と(笑)。一条天皇と定子には、お互い思い合っているだけでは成立しないものがたくさん降りかかってくるので、定子の葛藤を見ていると愛おしいけれど、ずっとどこか苦しかったですね。定子が家の繁栄という重責を負っていることを重々承知している一条天皇もいるし、自分も帝として公卿たちに後ろ指をさされないよう、しっかりと芯を持っていかなければいけない思いもある。常にそんな感情の板挟みにあったので、本当に楽しく愛し合えたシーンは一瞬だった感覚です」

出世を競う公卿たち、そして定子と皇太后・詮子(吉田羊)の嫁姑のバトル。塩野は撮影を通じて、さまざまな思惑に晒される一条天皇の「孤独」を感じたという。

「今回、撮影現場で思いもしなかった感情が湧くことが凄く多くて。特に、一条天皇にとって大きいのが周囲との隔たりとなる御簾の存在。やはりすごく寂しいんですよね。皆が我先にと上に行くために、家を守るためにと動いている中で、自分の言葉一つでダシにされてしまうというか、そういう思いもきっとあったと思うんです。自分に放たれた言葉に対してもすべてが本音という風には全く受け止められない。ずっと一条天皇は周囲の欲望に晒され続けていたんだなっていうことはすごく感じていて。だからこそ定子への思い、自分の心に正直な部分っていうものを大切にして生きていったのかなと思いました」

まだまだ撮影は続くが初の大河ドラマで「僕よりも歴が長いベテランの方々とご一緒できるのはすごく勉強になりますし、学ぶもの、吸収できるものがたくさんあります」と大いに刺激を受けている様子の塩野。「僕のおじいちゃんは亡くなってしまったんですけど、やっとおじいちゃんに胸を張れる作品に参加できるようになったんだと。大河ドラマという歴史の長い作品に参加できた喜びをかみしめています」と充実の表情を見せていた。(編集部・石井百合子)

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