関越道バス事故12年 犠牲の紗知さんファンのバンド 29日、富山で追悼ライブ

  ●「前を向き生きる力に」一日限り再結成 

  群馬県藤岡市の関越自動車道で2012年に起きた高速ツアーバス事故は29日、発生から12年を迎えた。犠牲になった高岡市の宮下紗知さん=当時(19)=が大ファンだったバンド「FiVe(ファイブ)」が同日、命日に合わせ1日限定で再結成し、富山市内で追悼ライブを行う。「前を向いて生きる力に」。長年交流を続けている紗知さんの家族や友人を招き、悲惨な交通事故が起きないよう願いを込め歌を届ける。

 高校生の頃からファイブのファンだった紗知さんは休みのたびに全国を巡り、ライブに足を運んでいた。事故に巻き込まれたバスに乗ったのもファイブ解散後にメンバーが結成したバンドのライブに行くためだった。

 追悼ライブはボーカルの中江川力也さん(40)が発案し、ベースの上里亮太さん(40)、ドラムの牧野紘二さん(40)、キーボードの石垣大祐さん(38)が集まった。

 事故が起きた12年4月29日、中江川さんは公演後、紗知さんが事故に巻き込まれたことをファンから聞いて知った。「夢だったバスガイドになれました」と笑顔で教えてくれた紗知さんの顔が浮かんだ。翌30日に高岡市内の自宅を訪ね、動かなくなった紗知さんの前で手を合わせた。以来、毎年のように命日に合わせて訪れ、紗知さんの家族や友人と交流している。

 中江川さんは「どれだけ年月がたっても紗知さんに思いを寄せ続けていたい」と話した。紗知さんの母恵子さん(63)は「紗知がつないでくれた縁をこれからも大切にしていきたい」と語った。

 ファイブは1999年に結成された旧ジャニーズ事務所の4人組バンドで、事故が起きる4カ月前の2011年12月まで活動した。解散後は退所したメンバー3人が新しくバンド「Plan―B(プラン・ビー)」を結成し、約4年間全国各地でライブを行った。

 追悼ライブは29日午後5時から富山市常盤町のライブハウス「ソウルパワー」で行われる。売り上げの一部を能登半島地震の復興支援に充てる。

  ●「悲しみ変わらない」 高岡の長谷川さん

 バス事故では富山、石川県の乗客7人が犠牲になり、38人が重軽傷を負った。長女茉耶(まや)さん=当時(23)=を失った高岡市の長谷川利明さん(64)は「何年たっても悲しみは変わらない」と静かに語った。

 3人きょうだいの長女で、弟2人から慕われていた茉耶さん。高校卒業後は石川県の短大に進んだが、08年に病気のため45歳で亡くなった母千恵さんの闘病を支えるため、短大をやめて家事を手伝うなど家族思いだった。

 弟の昂さん(33)は4歳の長女と11カ月の次女に、茉耶さんから1文字もらい、それぞれ「由茉(ゆま)」「璃茉(りま)」と名付けた。長谷川さんは「茉耶を思いながらこれからも生きていく」と話した。

 ★関越道ツアーバス事故 2012年4月29日未明、群馬県藤岡市の関越自動車道でバス会社「陸援隊」の高速ツアーバスが防音壁に衝突し、乗客7人が死亡、38人が重軽傷を負った。前日夜に金沢市を出発、高岡市を経由して千葉県に向かっていた。男性運転手は自動車運転過失致死傷罪などに問われ、前橋地裁は14年3月の判決で「眠気を感じながら運転を続けた」と認定、懲役9年6月、罰金200万円の刑が確定した。

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