熱帯びる小田原市長選挙 「10万円」給付、公約の真意問う証拠音声データ

2020年の市長選で「ひとり10万円(給付)」と記載した守屋輝彦氏の選挙公報

 任期満了に伴う小田原市長選が5月12日告示、同19日に投開票される。小田原の課題を追った。

 2020年5月の小田原市長選。守屋輝彦氏が初当選を果たした翌日、市内の女性は守屋氏の後援会事務所に電話を入れた。守屋氏が選挙公報に記載した「ひとり10万円(給付)」の公約について真意を問うためだった。

 神奈川新聞社は女性から当時の会話とされる音声データを入手。陣営幹部とみられる男性スタッフが女性の質問に答える音声が記録されていた。

 スタッフ「10万円給付の件と思いますが、これは守屋輝彦が市長になった時の公約になっていると思います。それには議会の承認を得てから決まるものです。急いでやれば1カ月とか2カ月で決まると思います」

 女性「議会って否決とかありますよね。議会でだめと言われたら、10万円もらえなくなるんですか」

 スタッフ「そういうことになります」

 女性「うちも(生活が)苦しいので…」

 スタッフ「守屋輝彦には16人の市議が賛同していただきました。27人いる中で16人ですので、急いで進めるよう伝えます」

◆証拠音声に絶句

 選挙公報で市独自の「ひとり10万円」給付をにおわせながら、守屋氏は当選直後に「国の特別定額給付金を迅速に給付するという意味だった」と釈明した。

 しかし「国とは別に10万円を給付すると守屋氏が演説するのを聞いた」(市内在住の男性)などと複数の“証言”もあり、市には「有権者をだました」と批判が殺到。それでも守屋氏は問題が蒸し返されるたび「市民に『誤解』を与えたなら申し訳ない」とうそや悪意を否定し続けてきた。

 今回の音声データでは陣営側が、市議会で否決されれば10万円は支給されないと説明している。国給付金は市長選前に前市長が専決処分で予算執行しており、市独自の10万円給付でなければ陣営側の説明は成り立たない。

 神奈川新聞社は今年4月の定例会見で音声データを流し、守屋氏の説明を求めた。音声を聞いた守屋氏はしばらく絶句し、記者の質問にも「分からない。自分はうそを言っていない」と繰り返すだけだった。

◆少年院跡地の開発でも

 市民の「誤認」を誘導するかのような守屋氏の戦略は再び繰り返される。今年5月の市長選を控え、小田原少年院跡地の開発事業を巡って国との本格協議が始まっていない段階で「市の税金は一切使いません」と断言、自らの政治集会や市広報紙を使って大々的に宣伝した。

 守屋氏は「少年院跡地開発は市民の関心が高いのでプッシュ型で市政情報を伝えた」と釈明。一部の市民は「曖昧な表現でわざと市民を惑わせようとしているのは4年前と同じ。議会もごまかして誠実さに欠けている」と反発している。

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