【虎に翼】花岡(岩田剛典)は、やさしきポンコツ感を醸し出すことのできる貴重な役者になってきたと思う

「虎に翼」第19回より(C)NHK

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。困難な時代に立ち向かう法曹たちの姿を描く「虎に翼」で、より深く、朝ドラの世界へ!
※ネタバレにご注意ください

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伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第4週「屈み女に反り男?」は、明律大学女子部を卒業。いよいよ法学部で男子学生と机を並べ本格的に法律を学んでいく寅子たち。

今週は、寅子たちを迎える男子学生陣をはじめ、男性の登場人物の個性豊かなキャラクターとその描写がそれぞれ印象に残る週だった。

同じく法を学んでいく寅子たちと分かり合えないスタンスで壁を作り、よね(土居志央梨)とバチバチする轟太一(戸塚純貴)と、対照的に「あなた方はいわば開拓者。法曹界を、いや男女平等の世を切り開いている」と、自立する女子に理解を示す爽やかな青年・花岡悟(岩田剛典)。

とはいえ、そんな花岡に、恋愛への関心が薄い寅子がときめいてしまったり、よねと轟が「超ムカつくのに気になるアイツ」として意識するようになったりといった、わかりやすい少女漫画的恋愛が始まるわけではない。寅子は、その花岡のやわらかな物腰と言動に、逆に違和感をおぼえていた。

ハイスペ男子・花岡は、告白する女子に面倒くさそうな態度を見せたり、親睦を深めようと男子学生たちが企画した合同ハイキングでの待ち合わせ場所で、「女ってのは優しくするとすぐつけあがる。立場をわきまえさせないと」ときっぱり言い切ったりする様子を寅子は目撃する。表面上理解を示しても、花岡もまた、やはり女性は下という前提のもとに「上から」やさしさを見せる男だった。

とどめはハイキングの休憩中に他の男子学生と寅子との間に入ったときに言い放った、「男と同様に勉学に励む君たちを、僕たちは最大限尊重している。特別だと認めているだろ?」という一言だ。化けの皮がはがれたような、花岡の本意がむぎだしになった瞬間だ。しかしここで分かり合えない男女の溝として描かないのが、「寅に翼」だ。

「自分がどれだけ傲慢か理解できないの?」
という言葉で花岡は突き飛ばされ、次の瞬間、バランスを崩し崖下へと転落する。

この転落シーンがワイヤーアクションを駆使したもので、しかも「ゆっくり」とオーバーアクションで落ちていく、大変な場面なのにコミカルな映像に仕立て上げられていた。フェアネスが根底に流れる本作において、女性側の加害はコミカルにして良いのかと、若干引っかかる部分はなくもないが、この落下シーンは「マトリックス落下」などと投稿され、SNSでも本筋と関係なく盛り上がりをみせた。

それにしても岩田剛典は、連続ドラマ「シャーロック」でのディーン・フジオカとのバディをはじめ、ハイスぺなのにどこかに隙があるような、やさしきポンコツ感を醸し出すことのできる貴重な役者になってきたと思う。

いっぽうでそんな花岡を何度もたしなめ、転落によるけがで入院した花岡が、「もう下手に出るのはやめた!」と逆ギレし虚勢を張るときには「愚か者!」とビンタを喰らわせ、「思ってもないことをのたまうな」とかたくなな花岡の心を拓かせたのが、登場時には典型的な男尊女卑キャラのように描かれていた轟だった。

「虎に翼」第16回より(C)NHK

「俺が漢(おとこ)の美徳と思っていた強さ、優しさを、あの人たちは持っている」
と、寅子たちの姿に打たれ、本当にリスペクトしているのだ。

この轟と花岡、男女間の恋愛よりむしろBL的な「キュン」が生まれそうでもあるが、この轟のキャラは視聴者にも好評で、SNSには「#俺たちの轟」というタグをつけた投稿が数多く見受けられる人気となっている。

質実で誠実な轟の言葉と態度に目がさめ、自分に正直になる花岡。梅子(平岩紙)に、「皆さんを尊敬しているのに無駄にかっこつけたり」「帝大生に引け目を感じたり」と、本音を打ち明け頭を下げる。そして最終的には「また君のことばかり考えてしまうだろ!」と、うっすら恋愛的「キュン」が(ただしモノローグ的なナレーションの口調も含めややコミカルふうだが)発生するのだった。

この花岡の気持ちの変化だけでも1週間5話分じゅうぶんすぎるほどの内容になりそうだが、今週はとにかく盛りだくさん。花岡たちの置かれた環境や心情を浮かび上がらせるのが、「ホモソの頂点」エリート弁護士の夫・徹男(飯田基祐)が妻をバカにした言動で笑いをとる行為。そして、それを前にしたときの、梅子の複雑な「スン」。そこからの梅子の「法」に込めた強い思いが見え、寅子のほのぼのした「キュン」の直後に、父・直言(岡部たかし)の贈収賄容疑での逮捕という急展開。

家宅捜索が行われ、事件は大々的に報道、寅子も登校できない状況に追い込まれていく。そんな状況の中、捜査員たちに法を学ぶ立場から対峙する優三(中野太賀)。正義と頼もしさを見せるものの、緊張すると腹痛におそわれることがあるという頼りなさで深刻な状況のなか笑いを届けてくれる。

いつも明るく「そのほうがいい!」と、少々ズレた大らかさで包容力と笑いをくれる兄の直道(上川周作)。報道陣に囲まれ自宅から出られず困る寅子のもとに、隣家づたいに生垣を乗り越えて登場する花岡、そして穂高教授(小林薫)、どこか頼りなさそうな彼らがすべて頼もしい寅子の仲間に見える安心感はなんだろう。次週、重い展開が続く中、寅子たちの逆襲に期待したい。

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