日曜出勤で娘のゴルフ代を稼いだ母 初V天本ハルカは母子家庭、だから挑戦できた5度のプロテスト

パナソニックオープンレディースで初優勝した天本ハルカと母・結子さん【写真:Getty Images】

最終日プレー中に響いた「止まってくださ~い」、声の主は天本ハルカの母・結子さん

女子ゴルフの国内ツアー・パナソニックオープンレディース最終日が28日、千葉・浜野GC(6669ヤード、パー72)で行われ、首位で出た25歳の天本ハルカが通算19アンダーでツアー初優勝を飾った。7バーディー、1ボギーの66で回り、1998年度生まれの「黄金世代」では15人目の優勝。5度目のプロテスト受験で合格した苦労人が、5連続バーディーを決めるなど大混戦を制した。幼少から母子家庭で歩んできたが、目の前で最高の母親孝行を果たしてみせた。

笑顔でフラッシュを浴び続け、緊張した面持ちの天本は優勝スピーチで少し声を上ずらせた。

「今季一つ目の目標だった初優勝を挙げることができて本当に嬉しいです。いつもサポートしてくれる家族とチーム、そしてスポンサー様、応援してくださる皆様に感謝の気持ちでいっぱいです」

「家族」とは母・結子さんのこと。グリーン脇にいた母は「ずっとこの瞬間を2人で夢見てきましたが、意外にドキドキしないですね」と一人娘のスピーチに目を細めていた。

「うちは母一人、子一人でやってきたので、ずっと二人三脚です。ここまでいろいろありました」

娘の幼少期、日曜も働いていた。天本は祖父の自宅で過ごし、週末の午後はゴルフ中継を見るのが習慣だった。宮里藍に憧れ、8歳から握ったクラブ。試合に出るようになると、用具代、プレー代に加え、遠征費も必要だった。結子さんは言う。

「それは私が働いて出しました。本人は遊ぶこともせず、ゴルフ一筋でやっていたので、『将来、返してくれれば』の思いでやっていました」

プロテストに4度失敗、結子さん「私はめげそうでした」

だが、プロテストに4度失敗。結子さんは「私はめげそうでした」と正直に振り返るが、本人は諦めなかった。「これが最後」との約束で挑戦した2021年11月、5度目で合格。母子で喜んだ。

結子さん「もう、その喜びでこの3年間はやっている感じです。今季はオフに『今年は複数回優勝する』と誓い合いました。なので、初優勝は通り道だと思っています」

現在も働く結子さんは、試合に同行できない週もあるが、今週末は会場に駆けつけることができた。天本にとって初の最終日最終組は尾関彩美悠、佐久間朱莉とのペアリング。ともにプロテスト1位で一発合格のエリート。多くのギャラリーが2人に注目していた。2人のプレーが終わると、大勢が歩き出すことの繰り返し。その中、結子さんは右手を挙げて言っていた。

「プレーに入りま~す。止まってくださ~い」

ボランティアスタッフの役回りでもあるが、結子さんは愛娘のために率先して声を出した。優勝が決まった後、スコア提出を終えた娘を見つけて言った。

「良かった。良かった。本当に良かった」

涙はなく、2人で明るく笑い合った。そう、これはゴールではない。全てを分かり合う母子のサクセスストーリーは、これからが本編になる。

THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida

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